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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
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#557 聖職者

 曲の一小節目で聴く者を泣かせる演奏家など、そうざらにいるはずもない。ワタシにとってのそんな一人が、ピアニストの辻井伸行さんだ。彼がピアノの前にすわり、ほんのいくつかの音を奏でれば、ワタシの涙腺はあっという間にゆるんでしまうのだ。

拍手[1回]


 先日、昨年のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでの辻井さんを追ったドキュメンタリーを見た。辻井さんが優勝したこのコンクールは、世界でもっとも苛酷なコンクールと言われる。50分間のリサイタルを自分でプログラムを組んで演奏することと、オーケストラとともにピアノ協奏曲を2曲演奏することが課題だ。演奏だけではなく、協奏曲の演奏に必要な「協調性」や、リハーサルの時に見られる「人間性」も評価の対象になる。今回も世界から選りすぐりの若手ピアニストが集った。いずれもすばらしい技術と感性の持ち主だ。が、辻井さんの音色は際立っていた。それは「演奏者の存在を感じさせない演奏」だった。

 演奏者が音に込めるものとはなんだろう。それは感情だと、ここでたびたび書いた。が、辻井さんの演奏を聴くと、その感情とは人間の感情ではなく、神の感情ではないかとすら思えるのだった。

 人間がどうあがいても手に入れられないもののひとつに「純粋さ」がある。人は誰しも、今この時点よりさかのぼって純粋さを取り戻すことはできない。それゆえに、たとえば子どもたちの、たとえば自分より純粋だと思える人のそれを、価値あるものと考え、守りたいと願うのだ。それはこの世界のかけがえのない財産なのだ。
 辻井さんの音に込められたものは神の感情だという感覚は、彼の純粋無垢な人柄と無関係ではない。若干二十歳の彼は、この先自分の純粋さをどう守ってゆくのだらふ。

 辻井さんの演奏は、何かが込められていると言うよりも、空っぽだという感じがする。つまり、人間のどろどろした感情や意図が一切感じられないのだ。それゆえに、ワタシはそれを神の感情が込められている、すなわち神の手による演奏だと感じてしまうのだ。

 ピアノ協奏曲を共演したオーケストラの指揮者が言った。
「彼の聴覚は信じられないほどハイレベルだ。(彼と目を見合わせることはできないが)かえってコミュニケートしやすかった」

 このコンクールに名前を冠せられたヴァン・クライバーン氏は言った。
「曲を弾きこなすことはスタートにすぎない。物語を読むことはできても、内容を理解して表現するには時間がかかるのと同じで、曲の深みへ到達することは容易ではない。彼はその深みへと至っている。彼の演奏は奇跡としかいいようがない」

 さて、ご存知の人も多いと思うが、辻井伸行というピアニストは、生まれつきの全盲だ。が、演奏中の彼の、「視線」を上に向けて微笑む様からは、彼が明らかに何ものかを見ていることが伺い知れる。その見えない目に何が映り、無垢な心にいったい何が映し出されているのだろう。

 ヴァン・クライバーン氏はつづけた。
「演奏家は聖職者でなければならない」
 聖職者にもっとも必要な資質である純粋無垢な心と、人を導く光を辻井さんは持っていると、氏は暗示していた。

 最後に、神に選ばれたピアニスト辻井伸行さんが、コンクール期間中の一日10時間に及ぶ練習を終えたときに語った一言を。
「練習を辛いと思ったことは、ないです」

 おしまい。 
10.01.14 記 
冬だな〜
砥石山
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管理人について

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巴だ リョウヘイ
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職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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