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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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久しぶりに、オカリナを聴いて涙が出た。


拍手[12回]




いや、毎週レッスンで生徒さんたちの熱い演奏にふれ、そのがんばりとわたしの指導への共感に感動の涙が込み上げてくることはよくある。
が、この日の涙は少し違った。
なんの私情も関わりなく、音そのものがわたしの心の琴線にふれることで生じた、純度の高い感動に導かれ出た涙だったのだ。

2018 オカリナフェスティバル in 神戸。
二日目のゲストは、デュオ・セルリアンのみなさん。
森下知子さん、千井慶子さんのオカリナデュオに加え、ピアノ伴奏と作・編曲が担当の大島忠則さんの三人だ。

緞帳が上がると、大きな拍手をかき分けるように大島さんのピアノが鳴り始めた。
椅子をかなり引いて座り両腕と両足を伸ばして弾く、いつもの独特の演奏フォームだ。
なんというやわらかく温かな音色。
曲は、前奏だけでそれとわかる、カッチーニのアヴェ・マリアだ。
会場はすぐに静まった。
9小節目、千井さんが吹き始める。
すると、世界が変わった。
ついさっきまで、何十人ものオカリナ愛好家たちが精魂込めて吹いても作り上げることが叶わなかったその世界こそは、オカリナの音色の心髄だけが持つ、あの透明で張り詰めた、それでいて流れる雲のような柔らかさを兼ね備えた、知らぬ人にとってはおよそ土の楽器が作り出しているとは想像だにできないであろうあの世界だった。

森下さんがふっと加わってくる。
なんの力みもなく、千井さんの音を包み込むような中低音。
大島さんのピアノは、オカリナの世界を宇宙全体に広げることに貢献している。
二本のオカリナのからみあい。
ああ、なんと斬新なアレンジだろう。

25小節目、祈りが最初のピークを迎える。
ここですでにわたしはうるるっ。

さて、間奏のピアノソロの間に、森下さんが高音のオカリナに持ち替え、命を吹き込んだ。
その瞬間から、それまで人の心に深く沈潜するかのような世界を作り出していたオカリナが、一気に天空いっぱいに星々を撒き散らし始めた。
めくるめく光の粒子が輝きを放つ。

森下さんの高音が、わたしの全身に一瞬で浸透し、体内深くに貯められていた水を振動させ、あふれさせた。
その高音は、森下さんが吹いた高音と言うより、高音に乗り移った森下さんの魂の輝きではなかっただろうか。


「次の曲は、中国の古い曲で…」
なに?よもや?
「『燕になりたい』という曲です」
「おおっ」
あたりかまわず声が出てしまった。
アヴェ・マリアと燕になりたい・・・
不肖わたしが日頃もっとも魂を込めて演奏している曲のうち二曲が、コンサートの冒頭から続くとは。
今驚かずしていつ驚く。

燕もまた斬新な編曲、入魂の演奏だった。
アルトとソプラニーノのC管を使い分けることで演奏音域を広げている点が、わたしの編曲にはない特色だ。
ピアノは終盤にずいぶん音数が多く激しいタッチになったが、この曲に流れる静謐さをまったく破ることがなかった。


続いては三曲続けて大島さんのペンによるアカペラ合奏の作品。

『名もない小さな小道』(※綴りは不明)は、AC管とSF管との合奏であると紹介が入った。
ふたつのオカリナ音の、長短の2度音程のぶつかり合いをあまり気に留めない箇所が多い。
優しいムードの小品にしてはかなり大胆な編曲であったと思う。
それを自然に聴かせる演奏マインドはすばらしかった。

『名もない小さな舞曲』は、小さい管同士の合奏の5拍子の技巧的な曲だ。
リズムの面白さは、空間を自由に駆け巡る二つの高音を、想像だにしない世界へと導いていった。

そして『こきりこ幻想』は、おふたり曰く「わたしたちの代表曲」
数年前に某コンクールでおふたりが優勝したときに板に乗せられた曲だ。
あの日から何度もスポットを浴び、磨きがかけられてきたであろうこの曲の演奏は、コンクールの日よりずっと力が抜け、それゆえにだろうか、安定感とパワーが増していた。
相当にテンポが速い曲ではあるが、そうした曲の演奏にありがちな危うい切迫感は微塵もなく、上質のスリルを味あわせてくれた。

全速力でそれぞれの軌道を駆け巡っていた二つの音が、ある刹那に同じ地点でぴたっと静止する。
そのほんの数拍の間のなんとも言えない緊張感は、あのコンクールの日に最も印象的だった場面のひとつだったが、この日も少しも変わることなく、やはり会場全体の空気をしばし凝固させてしまった。
その空気が解き放たれ、再び二つの音は、ますます奔放に時空を駆け巡る。
時折現れる効果的なリタルダンドの際の二つの音の一体感は、あの日からさらに深みが増している。


わたしがこの日、もしアカペラ合奏が演奏されるなら注目しようとしていたことが三点あった。
一点は、デュオという合奏の最小単位の編成で、いかにしてアンサンブルとしての妙味を表現するか。
もう一点は、差音にいかに対処するか。
そしてもう一点は、ふたつの楽器の音量のバランスのとり方だ。

一点目のアンサンブルとしての妙味の表現については、5部合奏と比しても何ら見劣りすることはなかった。
妙味とはつまり、全体の音の幅や厚みであり、複数の音の縦横の重なり合いの快感であり、思いがけない音色の創造だ。
デュオで演奏することで逆に、それらのエッセンスが浮き彫りになっていた。
息を合わせる楽しさ。
そして息が合えば、音が合えば、小編成でも厚く深みのある合奏サウンドを作り出すことができること。
よく聴きあうことの楽しさと効果。
これらはデュオであっても、また音域が限られた楽器同士であっても、十分に表現できることが証明されていた。

二点目の差音について。
二本のオカリナ、特に高音同士の合奏の際、実際には吹かれていない音が聴こえてくることがある。
これが差音という音響現象だ。
差音は、ふたつの音の周波数の特定の差によって生じ、変化するが、実際には空気を振動させていないという、幽霊のような音なのだ。
差音はときに不快な響きとなり、特にアカペラ合奏の妨げとなってしまう。
が、この日は差音を聴き取ることができなかった。
必ず鳴っているはずの差音をどうしても聴き取れなかったのはなぜなのか?
よもや、差音を完璧に排除する編曲がなされているのか???
それは不可能だろうし、差音は当然生じていたはずだ。
思うに、この日の三曲はいずれもテンポが速く、また長い音で作る和音も少なかったので、差音が気になる場面がなかったのだろう。
ということは、こうしたことを考慮した編曲ないし選曲であったことは十分考えられる。

三点目の音量のバランスのとり方。
オカリナ演奏では、息の強さの調整だけでバランスを取ろうとすると、ピッチが乱れてしまう。
そこで、音を出すタイミングをずらすことでバランスを取る。
それには、タンギングの微調整が必要になる。
この日、この高度なテクニックが高いレベルで達成されているのを聴いて、おふたりの演奏ライフのバックボーンであるサックスの演奏・練習経験を想起せずにはいられなかった。
サックスとオカリナは、当然息の入れ方もタンギングの仕方も異なる。
が、サックス演奏の経験によって培われたそれらに対する意識の高さと技術が、オカリナ合奏に色濃く反映されているのだろうと想像できた。


大島さんが再び登場し、モーツァルトの魔笛からの選曲と、久石譲さんのスタンドアローンが演奏され、ゲスト演奏のコーナーは幕を閉じた。
いや、幕は閉じず、そのままアンコールになだれこんだ。

大島さんの、やたらテンションが高いMCが会場を引き込んだ、と言うかあさっての方向へ連れて行った、と言うか翻弄した。
なんだか限りなくイミフなトークなのに、その語り口の可笑しさと身振りだけで会場を笑いの渦に巻き込んでしまった氏には脱帽。

競馬がどうしたこうした、みなさん帰り道で赤信号で飛び出さないように、などといったトークに続いて、曲のタイトルらしきものが告げられた。
「さいばっ」
・・・なに、それ?? サイバー??

わたしは「さいば」をしっていた。

大島さんがピアノの前で「うひひひひ~ん、ぶるるるるっ」といなないた。

「さいば」は「賽馬」と書く。
中国の曲で、草原を駆けていく馬を表現した激しい曲だ。
二胡の代表曲のひとつとされている。
このチーム、「燕になりたい」といい賽馬といい、ずいぶん中国づいてらっしゃるんだな。


特記しておきたいもうひとつのこと。
それは、デュオ・セルリアンはこの日ここまで、すべてシングル管オカリナで吹ききったことだ。
プロや上級者の間では複数管オカリナの使用が当たり前のようになっている。
それを、あえてシングルにこだわったデュオ・セルリアンのコンセプトとはどのようなものだったのか。
答はほぼ自明であると思われる。

あっと言う間の40分間…くらいだったと思う。
つくづくオカリナの音色とは奏者の魂の反映なのだ・・・そんな思いが帰り道に胸に去来した。


森下さんがある冊子に寄稿していた。
オカリナは、タンギング、息づかい、運指といった基礎技術、そして身体感覚や音色の創造に、とても繊細な感性とコントロールが求められる楽器だ。
だからこそ、ある程度年齢を重ねてから始める二番目の楽器として最適であると思う、と。
わたしの思うに、そのココロは、、、
若い時のようにあふれるエネルギーにまかせ豊富な練習量によって難易度の高い技術の習得を目指すことから、一歩進んで、リラックスして頭を使って創意工夫によって楽器に取り組もう。
そんな風にして身に付けた楽器は、若いころのそれよりもずっと深みがある、吹く人の人生を映し出すかのような音色を奏でてくれることでしょう・・・
というようなことではないだろうか。
このココロは、わたしがこの十数年間レッスンで最も強調し続けてきたことと完璧に重なる。
・・・と言うか、多分に勝手に重ね合わせて書いてしまって森下さんごめんなさい。

とまれ森下さんたちが、この日実際の演奏を通して、この提案にいっそうの奥行きを与え、わたしの確信を深め、励ましてくれたことに感謝している。
それは、サックスからオカリナへの転進、病の克服といった大きな壁を乗り越えてこられた森下さんだからこそだったのかもしれない。
 つづく。
 

18.08.27 〜 30 記 

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はじめまして。
生徒さんからこちらの記事をご紹介いただいて、拝見いたしました。
セルリアンの演奏についてとてもたくさん書いてくださりありがとうございます!

「差音」のことを書いてくださっていますね。
デュオでは差音を和声音に含めるようピッチコントロールして演奏しておりますので、あまり目立たないのではないかな、と思います。

シングルオカリナだけに拘っているつもりでもないのですが、音域の狭さを感じさせない編曲の妙技のおかげ、複数管をあまり使わないで演奏できています。
森下知子 URL EDIT
at : 2018/09/05(Wed) 09:03:11
Re:はじめまして。
森下 知子 様

拙文にコメントをいただきありがとうございます。
森下さん、千井さん、そして大島さんの演奏に久しぶりにふれ、感動し、ブログにその思いの一端を記した次第です。
その当の森下さんからコメントをいただくとは夢にも思ってませんでした。
こんなにうれしいことはありません。

差音の処理の仕方、驚きました。
貴重なお話を聞かせていただきました。
うまくいくかどうかわかりませんが、今度生徒さんと試してみたいと思います。
日頃生徒さんたち共々、わかっていてもなかなかできないピッチコントロールに苦心しているところです。

そして、大島さんの編曲はすばらしいと常々思っています。
ピアノも最高です。
大島さんの音楽にふれるたびに、わたしも音楽全般に対する理解をもっと深めたいと思わずにいられません。

まだあの日のみなさんの音が聴こえてきます。
これからも熱い演奏を世界に届けて下さい。

このエントリのことを森下さんにお知らせいただいた生徒さんに、どうぞよろしくお伝え下さいますように。

- - 巴だ - -
at : 2018/09/05 09:10
(9/6 にいただいた拍手コメント)
私も、オカリナを演奏する人間として、論じられている趣旨に同感いたします。
森下さん、千井さんとはコンクールの折にご一緒させて頂き、また 短時間ではありましたが、会話をさせて頂き、お人柄からあの心打つ音色を響かせているものと感じました。
私も演奏するにあたり心していることに、瞬間の心の在り方が、一つひとつの音、そして音楽として出来ているものと思っています。
演奏するにあたり、自分だけの演奏ではないこと。相手に響かせて行かなければならない。常々、心していることです。
水戸ふぢ EDIT
at : 2018/09/10(Mon) 10:19:38
Re:(9/6 にいただいた拍手コメント)
水戸ふぢさま

コメントありがとうございました。

「瞬間の心の在り方」を大切にされていることに共感します。
演奏はまさに瞬間の心、環境、コミュニケーション、そして音に関わることだと思います。
「自分だけの演奏ではないこと」が演奏の喜びですね。
それはまたきびしい所でもありますが。。。

いただいた「拍手コメント」は、当ブログのシステム上、そのままでは公開も返信もできません。
そこで、勝手ながらわたしの方で通常のコメント欄にコピペさせていただいた次第です。
今後ともよろしくお願いいたします。
at : 2018/09/10 10:23
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揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

コンタクト方法/上記のホームページ(HP)の「FAQ & Form」のページからどうぞ。

特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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