#441 充 実

#441　充　実

　夕方の気持ち良さの度合いで、その日の充実度が計れる。きょうは午前中に個人レッスンをひとつ終え、午後からは電話で新規の演奏の打合せを済ませただけで、雨降りで田んぼへは行けず、ガチョコンの事後処理も材料が集まらず進まず、といって新曲にかかるほどの時間もなく、何をするでもないうちにあっと言う間に夕方だ。で、この夕方は、雨上がりの風景がイマイチ胸に迫って来ない。

　自由業者は自分の時間がたっぷりあり、自分のペースで動けるのがいいとよく言われる。また、田舎暮らしは自然の中でのんびりゆったりと暮らせるからいいと言われる。では、田舎で暮らす自由業者のワタシは、自然の中でたっぷりとある自分の時間を満喫し、年中マイペースでのんびり暮らしていることになる。う〜ん、これは実態とはあまりにかけはなれているぞ。

「○月○日の○時にここへ来て弾け」と言われれば、言われるがままにそこへ行って弾く。「○月○日までにこれを作れ」と言われればへいへいと請け負う。「あれとこれとそれを吹け」と言われれば、少し抵抗のそぶりを見せるも、結局はほとんど言われるがままにそれらを練習して吹く。
　自由業者には自分の時間がたくさんあるなどというのは、勤め人や商売人の幻想だ。「自分のやり方」を持つことは自由業者の必須条件だとは思うが、それと「自分の時間」を持つこととは別の次元の話だ。

　田舎暮らしにしたってそうだ。都会で暮らしていれば人の世の時間に追われる。が、田舎で暮らしていても、追われるのだ。何に追われるかといえば、自然に追われるのだ。
　今の時節には、草は毎日数センチ伸びる。ススキなどは雨の翌日には１０センチも伸びる。ちょっと目を離すと、家の周囲も畑も田んぼも草ぼうぼうだ。ヘビが出る。マムシが出る。物の怪が出る。
　ここ数日のうちに種を播かなければ大根が採れなくなる。その日のために、時間を作ってクワをふるい、元肥を施し、また草を刈る。
　きょう中にタイヤを冬用に替えなければ、明日は雪で仕事に出られない。きょう中に雪かきをしなければ、明日は買物に行けなくなって餓えて死ぬ。燃料もなくなって凍え死む。
　田舎暮らしはのんびりマイペースだなどというのは、想像力の減退した都会人の幻想だ。

　だから、田舎で暮らす自由業者は、かえって人と自然の両方に追われる身であることになる。いわんや、田舎の勤め人をや。

　毎日のんびりゆったり過ごす唯一の方法は、小金を貯めてとっとと現役を引退することだ。

　小金が貯まってのんびりゆったり暮らすことが結果だとすれば、ばたばた忙しい日々は過程だとなる。が、過程は結果のためだけにあるのではない。過程自体に価値がある場合もある。いや、過程に価値を持たせることこそが、充実した日々を送る秘訣ではなかろうか。

　なんの結果も生まないように見える過程でも、それが誰にも何に対しても迷惑をかけない行ないであれば、周囲の幸せに大きく貢献したことになる。いや、むしろ、誰にも何に対しても迷惑をかけないようにすることこそ、もっともむずかしい。人の世で人の役に立つということは、往々にして何かを、誰かを傷つけることを伴うからだ。

　日が暮れてゆく。ビールが回ってきた。鳥が「リョウヘイ、リョウヘイ」と鳴いている。ありがとう。いっしょに生きているんだね。・・・かなり意味不明だが、きょうもようやく充実した心境になってきたような気がしたとさ。

　あっ、ホトトギスだっ。いよいよ夏か。「トッキョキョカキョク」てなメロディー。ＳＦ管。
　↓

　おしまい。　
09.05.28 記　

種を拾ってきて増やしたアカツメクサ

2009/05/29 (Fri) 雑　感 TRACKBACK() COMMENT(2)