#444 虹

#444　虹

　きのうの夕方、三日目の田植えを終えたとき、冬に掘った排水溝に何気なく目をやると、水面に七色の光が見える。油が浮いているのかと思ってよく見ると、それは虹のように見えてきた。で、頭上を見て驚いた。雲ひとつない天空に、虹が弧を描いている。それが、写真の虹だ。

　この虹は、まことに不思議だ。空に浮かぶ虹と言えば、たいてい太陽の同心円上に現われる太陽環だ。が、この虹の場合、太陽は虹の左下にある。虹は、３０分以上くっきりと姿を見せていた。
　この虹の正体を知りたくて、家に帰るとネットで調べてみた。が、とうとう見つけられなかった。

　虹は吉兆だという。牛歩のごときペースで、しかし順調に進み、日を追うごとに楽しさが増す「お手植え」の三日目。天空に突然現われた不思議な虹は、それでいい、そのまま進みなされと言ってくれているように思えた。が、この虹はそんな心あたたまるお告げではなかったのだ。

　虹の写真をたくさんアップしているブログを見つけた。東京からとある山村へ移住した人のブログだった。で、そこにもワタシが見たような虹はなかったのだが、農薬の危険についての記事がワタシの興味を引いたのでついでに読んでみた。
　マイ田んぼは放棄から二年以上が経ったとはいえ、残留農薬が少々気になっている。で、次は残留農薬についてのサイトを当たってみた。次は土壌調査のサイト。次は土壌成分のサイト・・・。

　このように、虹に始まっていくつものサイトをたどっていくうちに、ワタシはマイパラダイス的田んぼ作りにおける、致命的とも言える失敗に気がついたのだった。

　さっきまでのパラダイス気分はどこへやら。植え付けた苗の多くが育たないやもしれないというショックだけでなく、自然の摂理を何もわかっていなかったことを思い知らされて打ちのめされた。あまりにも当たり前のことを見逃していたことが情けなかった。

　失敗に気づいたとき、不思議な虹が現われた意味がわかった。虹は、ワタシに様々なサイトをたどらせて失敗に気づかせ、取り返しがつかなくなる前に手を打つように知らせてくれたにちがいない。
　どのような失敗なのか、今はまだ書く気がしない。とにかく、あまりに大きなショックで、昨夜は何度も目が覚めた。で、今朝は居ても立ってもいられず、早起きして田んぼへ走り、失敗への対処を始めた。

　雨が落ちてくる中、事態をなんとか好転させようと、三日かかって植えた苗の間を、よく知ったご婦人と二人で泥だらけになって這い回り対処作業をした。と、きのう植えたばかりのもち米の苗が、早くも根付き始めている。すごい。生きているんだ。胸が熱くなった。
　ワタシは、一本一本の苗に「ごめんな、今助けてやるからな」と声をかけながら作業した。

　きのう畦に寝転がって虹を見ていたとき、木立の陰に隠れようとする太陽の方から、真っ白な煙のような雲が勢いよく伸び始めた。それは、太陽神が吐き出した壮大な吐息のように見えた。神の吐息は、ワタシの上を西から東へと伸びていき、いつか虹をおおい隠した。その神秘的なフォルムと激しい動きは、なぜか神の際限ない怒りのように思えた一方で、慈悲のようにも思えた。

　きょう、この虹はたいへん珍しい気象現象であることがわかった。「環天頂アーク」という。
　失敗したなどと言うが、人も田んぼもすべての自然も、神々の意思のままにちがいない、とさ。
　↓
　ＡＣ管。

　おしまい。　
09.06.03 記　

排水溝の水面に映った虹

2009/06/04 (Thu) 田舎暮らし TRACKBACK() COMMENT(1)