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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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朝、下の田んぼの用水路にバケツを洗いに行ったときのこと。
水路脇にしゃがんでばしゃばしゃと水音を立て始めると、3mほど離れた道端で何か大きなものが飛び立った。
茶色い羽で覆われたその鳥を見て、近頃近くにファミリーで住み着いている山鳥かと思った。
と、その鳥は飛び去らず、その辺りに張りめぐらされている鹿除けネットにつかまった。
あろうことか、まくれ上がったネットの下辺に、逆さになってぶら下がっている。
コウモリじゃあるまいしとつぶやきつつよく見ると、振り返ったのは丸い顔に小さく黄色いくちばし。
なんとフクロウではないか。

拍手[7回]



逆さになったフクロウは、まばたきひとつせずわたしの顔をじっと見ている。
わたしも突っ立ってフクロウの顔をじっと見た。
ネットに逆さにぶら下がってゆらゆら揺れているフクロウ。
あまりにシュールな図にしばし我を忘れた。
数歩だけフクロウに近づいてみた。
あれフクロウは、ただ逆さにぶら下がっているのではなかった。
鹿除けネットに足がからまって動けなくなっている。

フクロウは相変わらずわたしの顔をじっと見ている。
そこには恐れやあせりはまったく感じられない。
身じろぎひとつせず、まあるい顔をこちらに向け、まん丸なつぶらな瞳で(それはほんとうにつぶらで愛らしい瞳だった)ただじっと見ている。

救出作戦発動。
納屋にもどって取ってきた道具類を手に、わたしはフクロウに近づいた。
まだ若いようで、大人のフクロウより一回り小さい。
激しく抵抗されることも予想したが、羽ばたきひとつしない。
愛らしい眼の光とは裏腹に、すでに消耗し切っているのかもしれない。
わたしはフクロウに絡んでいるネットをなんなくつかみ、ニッパで切り始めた。

以前鹿が絡まったときのことをここで何度か書いたが、このたびはなんとか生きて帰さないと申し訳なさすぎる。

ネットが次々にカットされ、フクロウは地面に横たわった。
フクロウはじっとしている。
が、ここからがむずかしい。
ネットは右足に幾重にも絡んでいる。
ネットの一部が身体や足に絡みついたまま飛び去ってしまうことが最悪の事態だ。
フクロウの視界を塞ぐために、顔をタオルで包み、ネットがフクロウにどう絡んでいるかをよく見て、慎重に切り離していった。

ネットは足だけではなく首周りにも巻き付いていた。
フクロウの首根っこをそっと押えて切り進んだ。
指先に触れたフクロウの首の骨は、あの勇ましい飛び姿からは想像もできないほど細くきゃしゃに思えた。

フクロウが、呼吸している。
人の呼吸と同じくらいのテンポだ。
ゆっくりと上下する胸の羽毛。
森の守り神の生きている証しだ。

ネットがすべて取り除かれたとき、フクロウは無事だった左足でタオルを軽くつかんだ。
不自由だった右足はと言うと、ネットの切れ端を握りしめたままだ。
どうやら長時間握りしめていたために硬直してしまっているようだ。
タオルをそっとめくって顔を見てみると、薄く開いていたフクロウの眼がふっと見開かれた。
ここまでまったく抵抗しなかったがもはや飛び立つ力も残ってないんだろうか、このまま弱って死んでしまうのだろうかと心配になったそのとき、フクロウは突然羽ばたき、森へ向かって飛び立った。

誤ることなく森へ飛び入ったフクロウは、30mほど離れた梢に停まった。
と、白く長い unchi を放った。
そして、こちらをじっと見ている。
わたしもじっと見た。
フクロウの視力は人間の三十倍だと言われる。
この距離でもフクロウは、わたしの表情が手に取るようにわかっていたのだろう。
わたしがふと他のことを考え目をそらした次の瞬間、フクロウは再び羽ばたいて森の奥深くへ消えていった。

ネットに宙づりになっているときもそうだったが、こちらが注意をそらすとフクロウも注意をそらした。
その有様は、これまだ対峙してきたキツネ、猪たち野生動物とまったく同じ反応の仕方だった。
こちらが友好的であれば安心し、関心を持ち続ければ関心で応え、不用意に干渉しようとするとたちまち警戒する。
このフクロウもかつて助けたキツネもネズミも亀さえも、こちらが助けようとすると抵抗しなくなった。
(解放されたり元気になるとすぐに暴れたり逃げ去ったりするけど!)
やはり彼らは人間の思考や感情の波を感じ取ることができるのだ。
それは、野生動物もまた人とコミュニケートできるということの証左だ。

この若いフクロウを、フクちゃんと名づけた。
ウチの周りでは毎年春先からフクロウが鳴き始める。
ときには二羽、三羽が鳴き交わしている。
フクちゃんがその一羽であることは間違いない。
その夜も聞こえたフクロウの声。
フクちゃんが今夜も元気で狩りをしていることを祈る。
 おしまい。


その日のひとこと

 
16.04.07 記 






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無題
読み進むにつれてまるで“浦島太郎”の
童話の様なお話だな~!と。
心の中をフクちゃん自身の五体で
その時の状況を感じ、純粋な心を察知していたのでしょう。
不思議な、ふれあいでしたね。
家の周りで聞こえるふくちゃんの
鳴き声が「ありがとう、ありがとう」と聞こえて来るようです。
自然と直に触れあえる場所は、心も穏やかに過ごせる感じが致します。
Kitty EDIT
at : 2016/04/07(Thu) 15:08:12
Re:無題
Kittyさま

浦島太郎…玉手箱はかんにんどすえ。
「ありがとう、ありがとう」…
そうですね、フクちゃんは鹿ネットを張ったのはわたしだとは知らないだろうし。
ちょっと切ないです。
at : 2016/04/07 21:53
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管理人について

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巴だ リョウヘイ
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職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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