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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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鹿をなでた噺を。
日曜日の朝、近所のおじさんがちょっと興奮気味の声で訪れた。
「鹿があんたのとこの鹿除けネットにからまっとるので役場に電話した。もうすぐ猟師が来る」
雄鹿が角をネットにからませて動けなくなることはよくある。
で、その鹿に近づいた人が角で突かれて亡くなる事故が、ウチの町でもあった。
よって、素人は鹿に近づくべからず。
が、とにかく様子を見に行かねば。



昨年お隣と協力して苦心して張り巡らせた鹿除けのネットは全長200mほどある。
その片端近くの斜面目指して細い里道を上って行くと、小道のすぐ左下の斜面で、一本の小さな栗の木が梢に残った茶色い枯葉を激しく震わせているのが見える。
わが家から30数mの所だ。
慎重に近づき斜面をのぞき込むと、鹿の灰色がかった背中と白いお尻の毛が見えた。
大きい。
二対の角は四本ずつに枝分かれし、威圧感たっぷりだ。
その角にちぎれた緑色のネットがからまり、ネットがさらに栗の木の幹に複雑に絡まっている。



まばたきひとつしない大きな黒目は、端が少々血走って見える。
丸まると太った雄鹿は激しく首を振り全身をくねらし、疲れては休み、また激しくのたうつ。
が、どう見ても自力でははずれそうにない。
距離約8m、ふーっ、ふーっという荒い鼻息が聴こえてくる。



近所のおばさんたちが怖いもの見たさで集まってきた。

こんなとき、そこで暮らす人間たちにはどんな選択肢があるか?
鹿を食べたければ、願ってもないチャンスだからすぐに撃つか刺すかすればいい。
が、食べる気がなければどうするか?
近寄ってからんだネットをはずすことは命にかかわるので不可能だ。
放置すれば、鹿はやがて力尽きて動けなくなるだろう。
そうすれば、ネットをはずすことはできる。
で、はずしてどうする?
近づいてネットをはずすことができるということは、鹿はもうほとんど死んだも同然の状態だということだ。
でなければけっして近づけない。
では、立ち上がれず、身動きすることもできない鹿が自力で回復できるのか。
それはあり得ない。
ということは、ネットをはずしてその場に放置しても、鹿はやがてその場で息絶えてしまう。
ネットをはずさずに置いても、もちろん死ぬ。

つまり、ネットにからまった鹿は、いずれにしても死ぬ運命にあるということだ。
であれば、必要以上に苦しませずに、人の手で送ってやるという選択肢があり得る。




Indian Flute:Ryohei TOMOEDA (played & recorded on 2014.02.04)


間もなく猟師さんがやってきたので、迎えにもどった。
初老の猟師さんは一人で軽トラでやってきた。
迷彩色の上下に府指定の猟師用オレンジ色のベストを着け、やはり迷彩色のソフトケースに収められた鉄砲を肩から下げて、バケツと太いロープを持っている。
「あとで鹿を運び出すのを手伝ってほしい。ちょっと様子を見てくる」と言い残して坂道を現場へと上って行ったので、ワタシは着替えにもどった。
と、そのとき、ドウンという銃声が一発、家の中にいたワタシの腹にまで響いてきた。

・・・・・

どこかの熊のように麻酔銃で眠らせて山へ戻すという選択肢はない。
それは、鹿を有害獣とみなして駆除してきた住民の意思と矛盾する。
鹿は、見つかったら撃たれる運命の有害獣なのだ、そもそも。

ここで、動物と人間の生存圏、あるいは生存権、または動物保護のモラルなど思想的なことについて今さら書く気はあまりない。
鹿よけネットを張るということは、こうした事態を想定しているということであるべきだし、ワタシは想定していた。
そのことについてだけ書いておきたい。

十二年ほど前だったか、以前住んでいた山里で、同じようなことがあった。
そのときは、まだ角がない子鹿がネットに首をからませて、首の骨を折って死んだ。
角をネットにからませて動けなくなった雄鹿を鉄砲で撃つ事件は、その山里では何度も起こっていた。
が、こんなバリエーションがあるとは想いもよらなかった。
複雑な思いで子鹿をネットからはずし、車に積んで山奥へ葬りに行った。
それ以来、ネットを張った時点で鹿に命の危険を与えるという自覚をせざるを得なくなった。
それは、自分で自分の食べ物を作り守るという覚悟とセットの自覚だった。

・・・・・

このたび猟師さんが鉄砲で仕留めた雄鹿は、100㎏を超える大物だった。
穏やかな物腰の猟師さんは「こんなに大きなのはめったにおらんよ」と微笑んだ。
撃たれた鹿を山から道路まで下ろす作業を手伝った。
角にロープを縛り付け、ワタシがロープを、猟師さんが角とロープを持って引き下ろした。
その大きさ、美しさ、重さに直に接したこの心からは、「GREAT」という言葉しか出て来なかった。
あまりにも立派な姿の鹿と、そしてこのような鹿を育む自然はなんと偉大なのだ、と。
鹿は古の人がそう呼んだ通り、正に神の使いだ。

この冬、せっかく張った鹿ネットを何度も破られ、畑は壊滅状態となった。
咬み破るのだから手の打ちようがない。
以前は鹿はここまでのことはしなかった。
母子の二頭の鹿が通ってきていて、夜中に栗林で侵入していた子鹿と向き合ったこともあった。
ウチの回りは鹿の落とし物だらけだ。鹿のはぜんぜんくさくないんでいいけど。
ネットを破られては直し、爆竹で鹿を追う日が続いた。

一週間ほど前、雪と強い冷え込みのせいだろう。
二頭の気配がしなくなった。
と思ったら三日前、別の鹿の鳴き声がした。
すぐに爆竹で追ったが、そのあくる夜(旧正月、新月の夜だ)ほんの一晩の間に、母子鹿が嫌いで食べ残していたブロッコリーすべてと、ネギと、たくさんのスイセンの芽まで食べられてしまった。
ずいぶん大きく深い足跡がたくさん残されている。
どうやら母子とは別の鹿の仕業だ。
それが、きのう撃たれたあいつだったわけだ。
近々再び破られる可能性が高い場所のネットを撤去し、ワイヤーメッシュと、より強度があり目が細かいネットに交換する計画を立てた矢先のことだった。

以前からくり返しているが、鹿や猪が憎いのではない。
だからこれからも、来たものをただ獲るのではなく、来る気を起こさせない構えを徹底する方針は変えない。



軽トラックの荷台に積み込まれた鹿の横腹を、思わず何度もなでていた。
これほどの立派な姿になるまでに、どれだけの素晴らしい日々を重ね、どれほどたくさんの恵みを一身に受けてきたことだろう。
ごわごわした固い毛、弾力に富んだ腹の分厚い筋肉の感触が、今も右手に残っている。
わたしたちと同じ土地で同じ物を食べていたあいつ。
あいつの分までしっかり作物を作ろう、しっかり生きようと誓った。
部屋にはかつての山里の家の前で鹿が落としていった角が置いてある。
これからはそれをよく見える所に移し、この日のことを忘れないようにしようと思う。


 おしまい。 
14.02.03 記
 
関連エントリ:「まな板の上の鹿」


ウチの無肥料大根、おいしかったか?

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演奏活動歴/揚琴、27年。オカリナ、16年。
活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

コンタクト方法/上記のホームページ(HP)の「Contact」のページからどうぞ。

特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

京都府下農村在住。
雨乞い師見習い。
自然農見習い。
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