揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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「限界集落」という言葉が使われ始めてずいぶん経つ。中山間地や離島に多い限界集落の定義は、高齢化率が50%を超えることだ。そのうち超限界集落となり、やがて消滅集落となるとされている。が、運命に負けまいとがんばっている限界集落もある。ワタシがかつて親しんでいた地域もそのひとつだ。先日、十六年ぶりにその地を訪れた。
京都府北部にも限界集落は多い。以前、そのひとつのある集落でスタジオを借りていた。確か1992年頃だったと思う。スタジオと言っても、ワタシが勝手にそう呼んでいただけで、築後百年以上経つ農家の土蔵の内部に畳を敷いて、窓と中二階を作って、人が寝泊まりできるようにしただけの建物だった。ときどき京都市内の住処から二時間走って楽器や自炊道具を持ち込み、たったひとりで数日間泊まり込んで音楽をしていた。わずか一年ばかりのご縁だったが、ワタシの本格的田舎暮らしの最初のステップだったように思う。
その一帯は、近ごろ「水源の里」と銘打って人集めに力を入れている。ワタシが通っていた集落は、その一帯のもっとも奥地の、深い山々に挟まれたせまい谷間にある。開けた田園地帯のはずれから細い渓流沿いに離合困難な一本道を延々と走ると、行き止まりは渓流の源流部だ。そこに五軒ほどの茅葺きの民家が、山に張り付くように点在している。すでに住む人がほとんどいなかったその集落は、瀬音と鳥の声以外は何も聴こえない、まったき静寂に包まれていた。
ちょうどその頃、その後揚琴のファーストソロアルバムに収録することになった曲のいくつかを作っていた。静かな谷にひっそりと建つ土蔵の中に響く揚琴の音色は、京都のアパートで聴く音と比べると、ずいぶん瑞々しかった。
いつかもう一度訪ねてみたいと思っていたその村を、先日とうとう訪れた。
村への道順すら記憶が定かでなかったが、名前を頼りに探し当てたその村は、変わらぬ静寂と深山幽谷の気に包まれていた。が、その家と土蔵があったはずの高台のあたりに、見知らぬ大きな建物が建っている。そのとなりにある母屋はおそらく当時の家だとは思うのだが、土蔵が見えない。母屋は長く空家になっている様子だ。
たまたま外に出てきた隣家のおばさんに、事情を話してその家と土蔵のことをたずねてみた。土蔵は、主不在の新しい建物の裏に今もあるとのことだった。気さくで親切なおばさんは、自分の家の敷地を横切って、土蔵の方へ案内してくださった。途中、おばさんと二人暮らしの、静かでやさしい笑顔のおじさんにも迎えられた。
土蔵は、荒れ果てた母屋と崩れかけた作業小屋の裏手に、変わらぬ姿で建っていた。が、土壁が少しはがれてきている。土蔵はワタシに何かを言いたげに見えた。
中を見ることはできなかったが、なつかしさがこみ上げ、捨て置かれていることの寂しさにおそわれた。と同時に、よくもまあこんなところまで揚琴を持って通っていたものだと、われながらあきれた。
当時、ワタシがいちばん渇望していたものは、静寂だった。ほかには何もいらなかった。いや、その静寂を求めたのは、実はワタシではなく、揚琴だったように思える。当時のワタシにとっての田舎暮らしとは、畑仕事や釣りではなく、「生きた静寂」の中で揚琴を奏でることがすべてだったのだ。
とまれ、当時の体験が、ワタシの田舎暮らしの源流になったことはまちがいない。
この村が限界集落から消滅集落に変わるのは、このままではほぼ確実に思える。そうなれば、そこにある静寂はずいぶん悲しく寂しいものへと変貌してしまうだろう。が、「水源の里としてがんばってるんやで」と言って明るく笑うおばさんの笑顔は、ふるさとを愛し、その未来をけっしてあきらめていない人のたくましさに満ちていた。あのおばさんとおじさんがおられる限り、ワタシの土蔵もまた命あるものとして、あの場所にたたずみつづけることだろう。
おしまい。
08.10.26 記
08.10.26 記
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揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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ほしい。
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演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)
コンタクト方法/上記のホームページ(HP)の「FAQ & Form」のページからどうぞ。
特 技/晴れ男であること。
オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。
2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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