#307 ゴッドファーザーたること

#307　ゴッドファーザーたること

　名前は、その人のイメージを作る。また名前には、言霊が宿る。それゆえに、名前を付けるのはむずかしい。グループの名前であればなおさらだ。そのグループの性格はもちろん、方向性や理想を表現していなければならない。そのグループが対外的にアピールすることを目論んでいるのならば、インパクトがあり、おぼえやすく、親しみやすいものであることが望ましい。と書けば、こむずかしいが、グループの未来を想い、名前を考えるひとときは楽しい。

　ワタシもアマチュア時代からこれまで、幾多の音楽のグループに参加し、それぞれの命名に関わってきた。
　傑作だったのは、アヴァンギャルドなロック・トリオで『ありがた屋』というのがあった。
　ドイツ人がメンバーにいたバンドでは、彼がどうしても『新幹線』にすると言って聞かなかった。
　初めてのＣＤを作った民族楽器集団の名前は『ＬＡＫＳＨＭＩ』と言った。吉祥天のことだ。楽な趣味ではない。
　で、オカリナの生徒さんたちのグループを統括するサークルの名前は『オカリナ倶楽部・夢見るガチョウ』とした。ガチョウというのは、オカリナがイタリア語でガチョウの子供の意味であることに由来する。もっと上手になりたい、楽しいことをどんどんやりたい、とのみなさんの夢と願いを込めたつもり。

　その生徒さんのグループのひとつに、気分一新のために近頃名前を変えることになったグループがあった。６人編成の熟年？主婦のグループだ。年齢層はやや幅広い。が、みんなで候補を出し合って一ヶ月以上も悩んだのに、決められずにいた。で、きょうのレッスンでのこと。
「センセイ、決めてください」
　やはりそうきたか。仕方なく、十個ほどの候補の中からひとつを選んだ。が、どうもみなさんの反応が悪い。名前というものは、第一印象が大切だ。打てば響くで「うんっ、それがいいっ」とならなければ、その名前はメンバーの心になかなか定着しない。
　そんなわけで、とうとうワタシが考えた名前を、ダメもとでいくつか挙げることになった。

　まずは『アンサンブル・檸檬（レモン）の気持ち』・・・お、ダメそうなのから出したのに、なかなか反応が良い。が、「長い」たしかに。
　女性らしくハーブの名前で『ローズヒップ』・・・ダメか。「ヒップ」に抵抗ありの様子。女性らしい上、このグループらしくやや三枚目路線でいいと思ったのだが。
　同じくハーブ路線で『ローズマリーのおばちゃん』・・・「まじめにやれっ」「あの映画（ローズマリーの赤ちゃん）は不気味だった」すみません。
　それでは、と美しく『虹色専科』・・・やや反応あるも、すぐに沈黙。たしかに、婦人雑誌の名前みたいやも。
　主婦のグループらしく『Supper' s Ready（夕食の支度）』・・・これは、イギリスの GENESIS というグループの代表曲のタイトルでもある。練習を終えて主婦業にもどる姿、主婦業とオカリナの両立の様子を表現したのだが、「え、Super Lady？」スーパーのレジのおねえさんになってしまった。
　音楽用語から『Saraband』・・・「あの曲はむずかしかったので、ちょっと」そうでしたな。

　で、『アンサンブル・檸檬の気持ち』に決まった。
『そのグループの性格はもちろん、方向性や理想を表現していなければならない』・・・しーらないっ、と。

　気分一新・意気揚々のメンバーの会話ははずんだ。
「Ｗさんが休みだけど、決めちゃっていいのかなー」「かまへん、かまへんっ」「『檸檬』って書けるようになるかなー」「中国語で『ネイ・ワン』や」「さっすが〜」「木へんに『ていねい』の『ねい』と、木へんに『もうこ』の『もう』やね？」「そう」「・・・それが書けない」
　喧々諤々。しーらないっ、と。

　あとで調べたのだが、姓名学的には、画数はなかなか良いようだ。

　生徒さんのグループに名前を付けたのは初めてだ。ゴッドファーザーになってしまった。これは、一生縁が切れないことを意味する・・・のだらふか。であれば、おそろしい。

　おしまい。　
08.09.01 記　

後ろ姿も美しい

2008/09/03 (Wed) オカリナ TRACKBACK() COMMENT(2)