#694 めくるめく

#694　めくるめく

　楽譜とも呼び譜面とも呼ばれるものは、芝居の台本と同じで、上演作品の内容が凝縮された虎の巻だ。多くの人は、演奏する際に楽譜がないとパニックになる。で、楽器と同じくらい楽譜を大切にする。楽器と共に持ち歩く。楽器と共に寝る。風呂に入れる。餌を与えて育てる。で、譜面台の上に楽譜を置き首っ丈で演奏する際に、いろいろ苦労が絶えない。

　ピアノの楽譜はへんたいだ。一曲につきオカリナの楽譜の数十倍の音符が並んでいる。いきおい、楽譜は本のようになり、ページをめくり続ける仕儀と相成る。
　さて、来る11月27日のマイ生徒さんたちの合同発表会。ワタシの演奏もある。ピアノ伴奏は毎度よく知ったご婦人。で、このたびの予定演奏曲目の中に、どうしても途中で譜面をめくることが困難な曲があることがわかった。このようなバアイ、伴奏者はどうするか。答、譜めくり係を付ける。

　譜めくり係の定位置は、伴奏者の左側だ。あと数小節で次のページという場面になれば、おもむろに手を楽譜に伸ばし、そのページの最後の小節の最後の音にさしかかる直前に、さっとページをめくるのが仕事だ。実にシンプル。
　譜めくり係の適性は、まず、楽譜が読めること。あたりまえだ。次に、曲を聴きながら現在地がわかること。これもあたりまえだが、ときどき聞き惚れて迷子になってしまって、伴奏者が次のページに進めなくなってしまう事故が起こる。
　この二つの条件を満たす人なら、誰でも譜めくり係ができる。

　必要な基本的技術には、左手で楽譜をめくることがある。右手でめくろうとすると、右腕で伴奏者の視界をさえぎってしまう。伴奏者、かがみこむ。またはのけぞる。
　それと、できるだけ静かにめくることも大事だろう。譜めくりのたびに「ばさっ」という音で会場の耳目を一身に集めてしまってはイケナイ。
　また、確実に1ページずつめくることも必要だ。一度に2ページめくってしまったら、あまりに意外な展開に、会場全体が目が回る。
　めくったページがふわ〜っと元にもどってしまってはへんたいだな。目で音符を追い続けている伴奏者は、ページのふわ〜っに合わせて右へ傾いてゆき、そのままイスから転げ落ちる。
　アレグロの曲で勢いよくめくりすぎて、楽譜がちぎれてしまったことがあったとかなかったとか。
　ちぎれたくらいならまだいいが、勢い余って楽譜を放り投げてしまってはへんたいだ。
　放り投げてしまった楽譜があさっての方向へ飛んでいけばまだいいが、伴奏者のお顔にばし～んとぶつかってはへんたいだ。
　ピアニッシモの場面でめくった時に、めくった後の左手がピアノの鍵盤に当たって「グワ〜ン」と鳴ったりしてはへんたいだ。演奏はそこを最後のクライマックスと見立てて終わるしかないな。

　で、よく知ったご婦人とワタシは、どうしても途中でピアノの楽譜をめくることが困難な曲では、どなたかに譜めくり係をお願いするしかない。このバアイ、発表会だから、マイ生徒さんに一人ずつ当たってみるしかない。
　全員に断られたらどうしよう。だったら、ここに譜めくりのへんたいさをあれこれ書くことなかろうっ、てか。そうだな、しまったな。誰も読みませんように。

　おしまい。　
10.11.11 記　

2010/11/12 (Fri) 音　楽 TRACKBACK() COMMENT(0)