#699 化 身

#699　化　身

　ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、11月13日、七年半ぶりに自宅軟禁を解かれた。89年から六年間、00年からも一年半軟禁されてきたから、通算十五年間軟禁生活を送ったことになる。このたび解放されたスー・チーさんが行なった演説には、人として学ぶべき点が多かった。

　スー・チーさんは言う。
「私の考えでは、政治とは『習得する』ことです」
「若者たちと話をする時に、私は悪い若者とか良い若者とかといった区別はしません。優等生と劣等生という区別も信じません。習得できる人と習得できない人という区別があるだけだと思っています」

　スー・チーさんが言う「習得する」とは、習得の前段階である「学ぶ」というブロセスを当然含んでいるはずだ。

「期待するだけでは何もできません。期待することを実現するためにどうしたらいいか。実現する際にも正しい方法で行動する必要があります」
「正しい方法で行動しなければ目標が正しいものではなくなってしまうからです」

「正しい方法で行動する必要」は、実現への道程の第一歩である「学び」からすでに必要であると思われる。「正しく学ぶ必要がある」ということだ。
　さて、スー・チーさんは、学び、習得し、行動し、実現するというプロセスは実は別々の事柄ではなく、「正しい方法」に貫かれたひとつのプロセスであると教えているのではなかろうか。正しく学んでこそ習得でき、正しく行動してこそ実現できる、スー・チーさんはそう言っているにちがいない。

　では、「正しい方法」がどのようなものであるのかは、いかにして見いだせばいいのだろう。思うにそれもまた、「学び」と別々ではないのだ。つまり、「正しい方法」を見いだそうとするプロセスにこそ「正しい学び」があり、「正しい学び」の中にこそ「正しい方法」が見いだされるのではないか。
　学びとは何かを探るうちに、正しい方法を少しずつ見いだしていく。ただし、そこには真剣さ、真摯さが欠かせないだろう。真剣さ、真摯さこそ、真正であろうとする人が取るべき最初のスタンスなのだ。逃げない、予断を持たない、あきらめない、というスタンス。

　もしや、スー・チーさんはこう言うだろうか。
「私が言いたいことは、そのような抽象的なことではなく、ミャンマーの歴史と情勢に鑑みた、もっと実際的なことなのです」
　それでもいい。真実の人の声は、真正な波紋を広げる。ワタシの以上の考えが、ワタシがその波紋の渦中にいることの証となれば、それでいい。

　真実に肉薄し、真実を杖に新たな地平へ歩みを進めようとする情熱、迫力。スー・チーさんという人は、そのようなエネルギーの権化、化身に見える。

　おしまい。　
10.11.22 記　

散り始めた街路樹を車中から。

2010/11/23 (Tue) 時　事 TRACKBACK() COMMENT(0)