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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
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#693 真善美 2

「序の舞」に一旦別れを告げて次の間へ進むと、上村松園の十七歳の時の絵が出されていた。オドロイタ。そこに描かれている女性の黒髪、顔の造作、着物の質感は、六十一歳の時の作品「序の舞」の女性のそれとほとんど違わなかった。展示はほぼ時系列で最晩年の作品まで続くが、七十歳の絵も十七歳の絵も松園の筆によるものだと誰にもわかる。これはすごいことだ。

拍手[4回]


 このことから、松園の絵は十七歳のときにすでに完成していたとも言える。少なくとも松園がその後進む道が、他者が見て取れるほど明確に十七歳の絵に示されていたことには疑いを入れない。
 十七歳の作品「四季美人図」から七十四歳の絶筆「初夏の夕」の間、累々たる作品が生まれた。当然だが、その間たびたび画風は変化した。が、画風の変化は松園の世界を損なったり根底から変えてしまったりするものではなく、その背後に何度も生きるか死ぬかの苦難があったにしろ、言わばマイナーチェンジ的なものだ。

 壮年に至るに連れ、松園が描く女性の表情にはリアルな感情が現れてくる。浮世絵的な構図と色彩が作り出す古典的な世界に、リアルな表情はなんの違和感も無く溶け込んでいる。その表情は、正に現代人のそれだ。美人画における古典と現代の融合は、新鮮なモダニズムを醸し出している。

 心技体がもっとも充実していたと思われる六十代には、現代的な感情表現が徐々に終息ないし収束してゆく。五十九歳の作品「母子」から六十一歳の作品「序の舞」へのわずか二年の年月に、松園のスタンスの大きな変化が見られる。

 六十代から七十代に描かれた女性たちの表情は、能面を彷彿とさせる。目線のほんのわずかな傾き、わずかに開かれた口元、そして顔の角度や人物の配置だけで、松園はあらゆる感情を表現しようとしていた。松園は、能がそうであるように、最小限の表現で凝縮された深い感情、感情のエッセンスを描こうとしているように思えた。

 話は十七歳の作品「四季美人図」にもどる。この絵の人物の表情には、二十年後に描かれる女性のそれと比べると、感情が表に出ていない。その意味ではこの絵の方が、一見最晩年の絵により近く見える。では、青壮年期にリアルな表情を描き続けたことは、回り道だったのか。
 けっしてそうではない。十七歳の顔と七十歳の顔は似て非なるものだ。七十歳で到達した画風においては、最小の表現で最大の感情が表現されている。それに対して十七歳の絵では、十分な感情が表現されていない。それらは共に「最小限の表情」という形を持つが、その表情の質にはこのように雲泥の差があるのだ。
 このことから、青壮年期にリアルな表情を描き続けたことは、晩年の最小の表現で最大の感情を表現するという境地へと至るために避けて通れない段階だったのだと言えるのではなかろうか。あらゆる感情をリアルに描くことは、それらの感情を直視し、いわば確認するために必要な作業だったのだ。そうして初めて、それらを凝縮し、普遍的なものに昇華させることができる。

 十七歳の絵から七十四歳の絶筆へと続いた松園の絵の道。松園の言葉を再掲する。
「真・善・美の極地に達した本格的な美人画を描きたい」
 おそらくは十七歳の頃にすでに抱かれていたであろうこの志が、その後半世紀以上も松園を突き動かしてきたことを思うと、畏敬の念さえ覚える。

 ・・・てことで、美術評論家ごっこ終わり。楽しかったなー。

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所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
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