#702 夢 見

#702　夢　見

　会場の外へ出ると、まだ５時過ぎだというのに、車のライトやビルの明かりがまばゆかった。日が短くなったなという感慨を抱いたのは、都会の夕暮れ時の喧噪と無数のライトの明るさに少し慣れた後だった。いつもは車で走り抜ける風景の中に、久しぶりに降り立ってみると、そこには意外にも、山の気が流れ込んできていた。この街で山の音楽会を開けてやはり良かったかも、だな。

　65名のガチョウさんが、それぞれの夢を胸に臨んだ山の音楽会。それぞれの夢と言っても、そんなに違いはあるまい。それらはきっと、そもそもは、好きな曲を、仲間と、楽しく、できれば思い通りに吹けて、聴く人に喜ばれ、それをまた喜びたいという願いなのだ。ささやかな願いではあるが、長くガチョウをつづけている人ほど、それが容易に実現できる願いではないことを知っている。だからこそ、それらの願いは夢となり、ガチョウさんたちは「夢見るガチョウ」なのだ。もちろんセンセイも、なかなか思い通りに吹けない一羽のガチョウ。

　が、その夢が完全に実現することは容易ではなくとも、ときどき、あるいはほんの一瞬でも実現するときが、誰にもある。それがたとえ瞬く間であっても、その瞬間は当人にとってはかけがえのない、もしかすると永遠にも等しい瞬間なのだ。夢が叶ったかけがえのない一瞬は、その人の中に深く根を下ろし、その人をどこかへ導き続ける。

　夢は、人をどこへ導くのだろうな。夢とはなんだらふ。夢とは、甘い誘惑なのかな。現実逃避なのかな。それとも、明日へのエネルギーなのかな。

　黙っていても、寝ていても、明日は訪れる。なのに、それをより良きものにしようと、一歩手前であがく姿は、ときに感動的でもあるからへんたいだ。なぜへんたいかと言えば、感動的なあがきは、大勢を巻き込むからなんだな。

　巻き込み、巻き込まれ、そうやって、要するに、感動が伝染していき、広がっていき、深まっていき、へんたいだ。

　では、人が夢に導かれる先は、きっと、「感動のるつぼ」なんだらふな。それはよかった。

　おしまい。　
10.11.28 記　

霜の朝

2010/11/29 (Mon) オカリナ TRACKBACK() COMMENT(2)