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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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#687 乱 心

 心を乱さないことって、ほんとにムズカシイ。せめて演奏に臨むときくらいは静謐な心持ちでいたい。が、乱れまい乱れまいとするほど乱す原因が次々とやってくるのは、いったいどういうわけやねん。が、心の乱れなんて、実は小さいことなのやもしれない。

拍手[2回]


 あれはいつのことだったか、ある由緒ある所の行事に呼んでいただいた。到着すると、行事の裏方としてたくさんの人が動き回っている。
 主催者さんにご挨拶すると「そこの突き当たりの部屋で少し休んでいて下さい」と指示された。同行者と二人で進んだ六畳の間には、真ん中に座卓が置かれ、上座に座布団が一枚だけ敷かれている。これは、下々の者が後で入室してくる身分の上の方を迎え入れるためのセッティングだ。まことに珍しい応接の仕方に少々面食らった。
 が、気を取り直して、我々は座布団のない下座に正座して、偉い人が入ってきて次なる指示が下されるのを待った。
 座ってみると、畳の上はホコリだらけだ。掛け軸がかかっていない床の間を見ると、小さな花瓶にしおれかけた貧相な花が一輪生けられている。部屋の隅には3分遅れたキッチュな目覚まし時計があり、その横に読みかけらしい書物が一冊、無造作に投げ出されている。
 待てど暮らせど誰もやってこない。お茶すら出てこない。すでに行事は始まっている。
 いくらこちらが仕事をいただいている側の者とはいえ、常識に照らして、これはありえない処遇だ。ここで、実はワタシが部屋を間違えていたというオチであればそれはよかったのだが。

 廊下を行き交う誰ひとりとして我々にかまう人がないのを見て、どうやらワタシが何をしにきた者なのか誰も知らないのだと結論した。で、自主的に行事の会場へ向かった。
 行事終了後、直ちに演奏会用に会場内の配置替えと舞台設営をする予定だった。が、スタッフはなぜか全員お客さんと共に出払ってしまい、誰も戻って来ない。ワタシへの指示も何一つない。

 予定を45分すぎた頃、三人のスタッフさんがやって来て、ワタシには目もくれず、おもむろに作業を始めた。そのうちにお客さんがわらわらと入ってきた。もはやサウンドチェックすらできない。ワタシの心の乱れはピークに達していたが、お客さんの前ではしかめっ面もできなければ、スタッフさんを責めることもできない。ニコニコしつつ準備を続けた。とっくに開演時刻を過ぎている。

 ようやく舞台上のセッティングを終えたとき、ふと見れば、いつの間にか現れた主催者さんが突っ立っている。
「もう(始めて)よろしいか」
 ワタシが言ったのではない。主催者さんがワタシにこう言ったのだ。お客さんの前で。
 結局、25分遅れで始まった。開演のあいさつをした主催者さんは、開演が遅れた理由の説明もお詫びも述べない。短くワタシを紹介すると、そのまま引っ込んでしまい、終演のときもその場に現れなかった。やはり人知を超えた存在だ。

 怒りで指がふるえては演奏ができない。叫びたいことを押さえて息が乱れてもできない。今、目の前に開演を待つ数十人のお客さんがいるのだ。すべてを飲み込んで演奏を始めるしかない。そう、お客さんのために、飲み込むしかなかった。そして、ふと思った。「きっとワタシは試されているのだ」。そしてこの思いつきを気に入ってしまい、心の中で何度もくり返した。
 演奏が始まると、おかしなもので、自分が演奏している様々な曲に自分が慰められた。そして、一曲毎にいただくお客さまの心からの拍手と笑顔にいやされた。怒りや心の乱れなど、音楽の前では、まったく取るに足りないものであったとさ。

 おしまい。 
10.10.28 記 
そろそろ出番だな。
脱穀機3
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管理人について

HN:
巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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