#467 事 故

#467　事　故

　雨乞い師は、季節の変わり目のサインを人間界に向けて秘かに出すことがある。雨乞い師見習いがそっとお教えする、梅雨明けのサイン。
「タチアオイの花がいちばん上まで咲くと梅雨が明ける」
　ウチの近くのタチアオイは今こんな感じ。

　関東・東海はとっくに梅雨明けしている。関西は６月９日に梅雨入りしてからきょうで４１日。ワタシの雨乞い日誌によれば、この間にウチの方で雨が降ったのはたったの１３日だ。これでは心もとないということで、我々雨乞い師が梅雨前線を引き止めていた。で、きょうは夕方からとうとう豪雨となった。降らせ過ぎだよ。

　さて、きょうは田んぼで草刈りをしていて、草刈り鎌で左手の親指を切ってしまった。幸い浅い傷で縫うほどではなかった。が、オカリナは吹きにくい。
　事故を防ぐため、切っ先を落とした上あまり切れない鎌をずっと使ってきた。が、ここ数日は固い草を刈ることが増えたので、毎日鎌を研いでいる。とてもよく切れる。

　切れにくい鎌で草を刈るには、力まかせに振っては絶対に刈れない。逆に無駄な力を抜いて適確な角度で一気に振るときれいに刈れる。少々集中力がいるが、軍手をしていれば、多少手に当たっても大ケガをすることはめったにない。そこに油断が生じることがある。刃を手にぶつけてはっと我に返る。が、よく研がれた鎌は、軍手の上からワタシの親指をなんなく傷つけた。

　きょうまで、いったい何十万回鎌を振っただろう。鎌が身体を傷つけるには、数十万回のうちのたった一振りで十分なのだ。その一振りを決して招かないためには、数十万回すべてを安全な振り方をしなければならない。といって、一振りごとに安全な角度を確認し力の配分を考えながら鎌を振っていたのでは、まったく仕事にならない。そこで「フォーム」というものが大切になる。

　ある運動をする際のフォームとは、その運動が目的とする成果を得るための身体の使い方の「型」であると言える。「正しいフォーム」と呼ばれるもっとも合理的で無駄のないフォームを身に付けるために、スポーツマンやミュージシャンは日々精進する。草刈りマンもしかり。

　正しいフォームは、一度身に付ければ、常に最小限のエネルギーの消費で最大限の成果を約束してくれる。が、心の乱れは簡単に正しいフォームを崩してしまう。だから、ここにも心の鍛錬の必要性が見いだされる。
　軍手ににじんでくる赤い血を見ながら、鎌が親指に当たった瞬間を思い起こした。そのときワタシは、明らかに雑念に囚われていた。慣れた作業の上で生じる雑念はフォームを乱し、作業を荒くする。オカリナで簡単なメロディーを力まかせに吹くようなものだ。力まかせの演奏はフォームを乱し、フォームの乱れはピッチと音色とリズムの乱れとミスタッチを生む。

　鎌でケガをして、慣れた動作や簡単な曲においても、常に正しいフォームと平常心を以てていねいに取り組むことの大切さを胸に、いや指に「刻み込んだ」とさ。いてててて。

　おしまい。　
09.07.19 記　

ご近所のタチアオイ。ウチにはないのでする。

2009/07/20 (Mon) 音　楽 TRACKBACK() COMMENT(0)