#464 妙 音

#464　妙　音

　こんなことはあまり書きたくなかったのだけれど、お医者さんにかかったことを書く。Ｋ先生は素晴らしいからだ。季節性の咳がなかなか止まらなかったので、二年ぶりに訪ねた。西洋医学の医師ながら、免疫療法、漢方に優れ、地域に密着した医療活動をしておられる。終末医療まで万全。で、早速、聴診器の技。これまでどのお医者さんも聴き逃していた微細な異音をキャッチされた。

　別室で記念撮影となる。Ｋ先生はワタシの胸のデジタル・レントゲン画像を、その場でＰＣ上で開いて見せた。幸い、異常らしき点はないとの所見。が、画像を指差して曰く。
「このような肺の人は、肺気腫になりやすいぞ」
「このような、と申しますと」
「幅広で平べったい肺」
「・・・いかにもそのような形でござりまするな」
「タバコ、やめようね」
「・・・」

　さて、一週間後のきょうは再診の日。きょうも、まずは聴診器。
「巴ださんの肺は、ちょっと不思議だね」
「と申しますと」
「妙な音がする」
「妙な音・・・」
「息を吸ったときに、空気がうねるような音」
「空気がうねる・・・」
「うん、うねる。なんでかな〜・・・う〜ん、なんでかな〜」

　レントゲンでは異常が見当たらないので、「妙音」がするのが不思議なようだ。
「実はそれがし、管楽器奏者にて御座いまするが」
「ふむ、管楽器を演奏すると、息を吐くときに肺に圧力がかかるよな」
「・・・いかにも」
「う〜〜ん・・・」

　聴診器でごく微細な音を聴き取る感受性、古今東西の手法と知識を用いて様々な角度から診断できる柔軟性、不要なことを口にせず患者から必要な情報を引き出す能力、そしていくら混み合っていても時間を気にせず一人一人に全力投球し説明の労をいとわない姿勢。これらを持ち合わせるお医者さんは信頼に値すると思う。で、このＫ先生にはもうひとつ信頼に足る側面がある。

　ワタシは、咳は止まったのにまだつづいている他の症状について、その原因を問うた。
「肺のトラブルとは別のことに起因すると考えるべきだろな」
「どのような可能性があると」
「現時点ではわからんっ」
　この率直さこそ、信頼に値する。わからないことをわからないと言えない、言わない医者の多いこと。患者の質問に答えられないときにテキトーなことを言ってお茶をにごす医者なんぞには、死んでもかかりたくない。

　それにしても、ワタシの肺が発する妙音が気になる。空気がうねるとは興味深い。自分で聴いてみたい。今度Ｋ先生のところへ行ったら、聴診器を貸してもらおうっと。
　もしや、すでに身体全体が楽器になっているという境地に達しているのだらふか。

　おしまい。　
09.07.13 記　

カンゾウも咲いて、梅雨明け近し。

2009/07/14 (Tue) 雑　感 TRACKBACK() COMMENT(0)