#378 タレントとして

#378　タレントとして

　某局のドラマで、歌手デビューしたヒロインにプロデューサーがこんな風なことを言った。「マンションを一歩出たらタレントなのだから自覚を持つべし」プライバシーは自宅の中にしかないって、やはり芸能界は大変な世界だ。こんな世界で生きていくには、よほどタフか目立ちたがりでないと無理だろうと思う。

　演奏屋をタレントだと思っている人が多い。ワタシのような者ですら、演奏に行った先でタレント扱いされて閉口することがある。ワタシとしては、演奏屋は製造業に近いと考えているのだが。たしかに、人前で芸を披露するのだから、タレントに近い部分はある。が、人前で何かをするのがタレントならば、学校の先生だってタレントじゃないか。

　タレントという言葉を直訳すると「才能」となる。タレントさんの才能が歌やおしゃべりの才能であることはまちがいない。が、タレント業とは、それらの才能以前に、キャラクターが第一なのではないか。絵になる、様になる、形になること。つまりタレントさんとは、歌やおしゃべりの才能を売る以前に、キャラクター商品なのだ。
　この点が、演奏屋とは異なる。

　演奏屋や作曲・編曲屋は音楽を表現して伝えることが仕事だ。物作りと言っていい作業だ。もちろん、演奏者にタレント性があれば、より幅広く楽しめるコンサートになるだろう。が、タレント性があることとタレントであることとはまったく意味がちがう。

　ワタシも人間だから、男だから、一度は女の子に囲まれてキャーキャー言われてみたいし、サインをねだられてもみたい。が、そんな経験は、叶うのであればだが、一日だけでいい。
　毎日がそんな風だったら、ほとほと疲れ果ててしまうにちがいない。常に人目を気にして行動するなんて、とてもできそうにない。スーパーで空揚げを買うこともはばかられるし、コンビニで立ち読みもできなくなる。どこで誰が見ているかわからない。まるでＣＩＡに監視されているスパイ容疑者だ。
　でも、スーパーの揚げ物売り場で長い時間物色していても、おばはんに「どいてんかっ」と言われなくなるかもしれんな。
「あっ、巴だリョウヘイやっ、ゆっくり買い物してやっ。ほんで、あとでサインしてんかっ」
　スーパーの揚げ物売り場にたちまちできるサインを求めるご婦人の行列・・・この方が悲惨か。

　芸能人気分を味わいたければ、次のようにすればいい。
　新幹線のホームを、大きくて真っ黒なサングラスをかけ、帽子を目深にかぶり、背広を着た若い男（マネージャー役）を連れて歩き、グリーン車に乗り込む。
　これだけで熱い人目を集め、芸能人気分を満喫できる。もちろん、グリーン車に乗り込んだあとは、発車したらすぐに自由席に移動するのだが。

　おしまい。　
09.01.22 記　

かやぶきの里

2009/01/23 (Fri) 音　楽 TRACKBACK() COMMENT(0)