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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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#157 まな板の上の鹿

「奥山に 紅葉踏み分け 啼く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき」
 万葉集の中でワタシがいちばん好きな歌だ。なぜいちばん好きか? これしか知らないからだ。
 毎夜雄鹿の遠吠えが聞こえるようになって一ヶ月ほどが過ぎた今朝、近所の猟師さんのところから屠殺後たった一時間の鹿の肉の塊がやってきた。まだとても温かい。ところどころに毛がこびりついている。

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田舎で暮らすようになって、殺生をする機会がふえた。食べるために殺した魚は数知れず。我が身と作物を守るために殺した生き物も数知れず。植林や畑を荒らすからと撃たれた鹿も食ったし猪も食った。マムシも食った。自然と向き合う暮らしでは、赤裸々な生の営みの実態を否応なく体感することとなる。

 まだ温かい肉というものを初めて手にして、はたと気づいた。これまで、肉とは冷たいものだと、どこかで思い込んでいた。肉とは、本来は温かいものだったのだ。肉食獣は獲物を捕らえたその場で、まだ湯気が立つ肉を食べている。そのことに思いが至ることは、うかつにもこれまでなかった。

 ずいぶん短くなった日が暮れかけてきたころ、めったに使わない牛刀を取り出してきて研ぐ。鹿肉の筋を取り、切り分けるのだ。なんと鹿肉は、まだ温もりがある。土間の水場で、牛刀もまな板も手も赤く染まった。
 慣れない手つきで筋を取り除いていると、近くの山で鹿が遠吠えをした。14年前にあの声を初めて聴いたときは、驚きと感動で金縛り状態となり、山の神様が吹く笛の音色ではないかと思ったものだった。いや、その思いは今も少しも変わっていない。

 今、すぐそこで啼いている神様の使いを、食べるために自分の手で切り刻んでいる。あそこで啼いてワタシを感動させる鹿と、今さばいている「鹿肉」は同じものなのだと、初めて実感したように思う。この実感は、間違いなく鹿肉の温もりが与えたものだ。またこの実感は、渓流釣りに没頭していたころに、渓魚と自分との関係において感じたものと同じ種類の感慨だった。

 生き物と食材との境界線というものが厳然と存在する。その境界線は人の手によってますます強固なものに仕立て上げられ、「人間らしい暮らし」という虚構を維持することにひと役買っている。人はその一線を越えたときに、初めて命の尊さときょうの糧のありがたさを知るように思える。
 あー、また鹿が啼いた。
 おしまい。
 
黄花秋桜
黄端秋桜
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管理人について

HN:
巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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