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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
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去る7月12日、一枚の二つ折り密封式ハガキが、マイ愛車の製造元であるF社の販売店から届いた。
開いてみると、それはマイ愛車がリコールの対象になったとの知らせだった。
自動車のリコールとは、一度販売された車に何らかの欠陥があることがわかった場合にメーカーや輸入業者が無料で修理する制度のことだ。
五年以上乗っているマイ愛車のどこかにある欠陥とは何なんだ?
致命的な欠陥でないことを祈りつつ、恐る恐る読み進んだ。



インフレータ

○不具合の部位(部品名)/エアバッグ装置(インフレータ)
○基準不適合状態にあると認める構造、装置又は性能の状況及びその原因/助手席用二段展開制御式エアバッグのインフレータ(膨張装置)において、ガス発生剤の吸湿防止が不適切なため、温度および湿度変化の繰り返しによりガス発生剤が劣化することがある。このため、エアバッグ展開時にインフレータ容器が破損するおそれがある。
○改善措置の内容/全車両、助手席用エアバッグインフレータを対策品に交換する。なお、部品が供給できない場合には、暫定措置として新品に交換する。または、助手席用エアバッグの機能を停止し、助手席サンバイザ部に当該エアバッグが作動しない旨の警告を表示する。

なんだ、エアバッグは開くのか?
ただ開く際にインフレータとやらが「破損する」だけなんだな、それはよかった。
いや、それならば対策品か新品を調達できるまではエアバッグの機能を停止する必要があるというのは合点がいかないな。
機能停止している間に事故ったらどうするんだ。
それとも、ガス発生剤が「劣化する」とあるから、バッグが十分に開かないのかな?

いまいち状況を見通せないので、その夜いろいろ調べてみた。
すると、ハガキの文面がいかに事実をはしょったものであるかがわかって目がくらんだ。
いくつかの情報をまとめると、欠陥の実際はこういうことだったのだ。

【助手席側のエアバッグシステムが衝突事故で作動した際、エアバッグを膨らませるためのガス発生剤が『異常膨張』し、ガス発生剤の金属製の容器が『破裂』して、破片で助手席と運転席の 乗員が負傷乃至死亡する可能性 がある

エアバッグが開かば死。
開かずとも死。
ただ死あるのみでござる。

ロイター通信は2016年2月29日に次のように報じている。

「タカタ製エアバッグの異常破裂により、これまで世界で10人が死亡、100人以上が負傷しており、世界の主要自動車メーカー14社がリコールを日米欧などで実施。エアバッグを膨らませるインフレータのリコール数は5000万個以上に及んでいる。」

シートベルトと共に車の乗員の安全を守るエアバッグ。
それが、開いたときに乗員を傷つけてしまうことになれば本末転倒だ。
そんな危険が世界規模で広がっていたのだ。
多くの車種に搭載されたタカタ社のエアバッグシステムの不具合で、その後死傷者は増えて、米国を中心に死者11名、負傷者100名以上という惨事になっている。
そのような事故を起こす可能性がある装置が、まだリコールされていないものを含めると現時点で世界に1億個近く出回っているという。
で、このたびマイ愛車も事故を未然に防ぐべくリコールの対象車両に数えられているという通知を受け取った次第だ。
「安全」という社会を支える基本理念のひとつがこんな形でも揺さぶられている。
縁あって当事者となったこのリコール事件の概要と私見を記録しておこうと思う。


爆風バッグ

エアバッグは、車が何かに一定以上のスピードで正面衝突した場合に開く。
その速さたるや、衝突から開くまでわずかに 0.02 ~ 0.03 秒というから、正に瞬きする間だ。
なんでそんなに速く開くのかという原理を、この機会に知ることとなった。
どんなに高性能なポンプでも、この速度でエアバッグを膨らませることはできそうにない。
それを可能にしているものが、容器に充填されたガス発生剤=膨張剤、または高圧ガスだった。
問題のタカタ製のエアバッグはガス発生剤を使用するタイプだ。
このタイプのエアバッグにガス発生剤として採用されている主原料のひとつに、硝酸アンモニウムがある。
火薬、肥料の原料として古くから人類文明に貢献してきた物質だそうだ。
…えっ、火薬?!
要するにこのタイプのエアバッグは、火薬を爆発させてその爆風でバッグを膨らませていたのだ。
速いはずだ。
…ん? エアバッグというより爆風バッグじゃないか!

だから、届いたリコール案内ハガキにあったガス発生剤の「劣化」とは容器の強度を超えて爆発してしまう状態のことであったという次第だ。
「劣化」などと書かれていたから膨張力が落ちるのかと思ったし、「破損」とあったのでちょっと割れたりするだけのことかと思ってしまったよ。


破 裂(リコールの概要)

このたびのリコール事件は、2008年に米国で、事件の主役である製造者・タカタ社製のエアバッグの作動時に膨張剤=ガス発生剤が異常膨張して、膨張剤の収納容器兼ガス噴出装置=インフレータ が破裂する可能性が判明し、搭載車両を製造したホンダがリコール届けを提出したことが端緒となっている。
ところがその甲斐無く、翌2009年には米国で初の死者が出たことに端を発し、これまでに米国で10名、マレーシアで1名の死者が出たほか、各国で計100名を超える乗員が負傷し、その間各国で断続的にリコールが繰り返された。
リコールの対象車は当初は車種・年式・販売地域が限定的だったが、現在ではいずれもたいへん広範に渡ってきている。
にも関わらず、今年三月にも米国で不幸な死亡事故が発生した。

事故はいずれも、ガス発生剤が収納容器の強度を超えたエネルギーで爆発して金属製容器を破壊し、その破片で乗員が死傷したというものだ。
なお該当のエアバッグは今のところ助手席用のものに限られるようだが、運転者にも死亡者が出ていることが、破裂の規模の大きさを物語っている。
実際、解体業者の工場でインフレータの取り外し作業中に破裂が起こり、破片がフロントガラスを突き破り、工場の天井にまで穴を開けた事例もある。

タカタ社はこの分野で世界第二位のシェアを持つ日本のメーカーだが、元はシートベルトなどを作っていた一部品製造業者で、1980年代からホンダの協力を得てエアバッグの製造に邁進しここまでの企業となった。
が、問題の製品が2008年頃から破裂事故を起こし始め、しかも事故原因、並びに事故を起こした製品の製造年月日と製造工場を特定できなかったことによって、リコールは回を重ねるに至った。
このたびわたしに届いたリコールの案内は、2016年6月30日付でF社から運輸省にリコール届けが提出された事案に当たる。

が、さらによく調べてみると、この一件は世界規模での大事件であるとともに、たいへん根が深い問題であることがわかってきた。


高温多湿

ガス発生剤の主原料として硝酸アンモニウムを採用しているのはタカタ社だけだという。
採用の理由は次のようなものだ。

・ガス発生効率が良い
・それにより容器の小型軽量化が望める
・化学的に安定している
・発生ガス、残留物に二酸化炭素を含まないので環境に良い

では、なぜ他社は硝酸アンモニウムを採用しないのか。
それは硝酸アンモニウムの取扱に特別な技術が必要だからだ。
この物質は温度変化に応じて変質し、爆発のエネルギーが大きくなってしまうことがある。
したがって、そのままではエアバッグのような安全装置の膨張剤としては不適格である。
が、温度変化に対する安定的な性質を持たせることができれば採用可能となり、しかも他の原料に比して前記のようないくつかのアドバンテージも得る。
同物質に温度変化に対する安定的な性質を付与する技術を持ち得たのが、タカタだけだったというわけだ。

火薬の専門家である東京大学工学系大学院教授などの発言をまとめると、硝酸アンモニウムの性質とは次のようなものだ。

── 硝酸アンモニウムの性質 ──

 硝酸アンモニウムが温度の変化によって変質することを「相転移」と言う。
 変質とは具体的には、エアバッグに用いられるもののように固形化(ペレット化)された硝酸アンモニウムの場合、化学的組成が変化して表面にひび割れができたり気孔ができたり、変形したりすることである。
 ひび割れたり気孔ができたりするとペレットの表面積が増す。
 この物質のガス発生速度=爆発力は表面積が増すと増大する。
 硝酸アンモニウムに硝酸カリウムを適宜添加混合すると相転移が抑制される。
 相転移が抑制された硝酸アンモニウムを「相安定化硝酸アンモニウム」と呼ぶ。
 相安定化硝酸アンモニウムの欠点は吸湿しやすいということである。
 同物質が吸湿すると温度変化に対する耐性が損なわれてひび割れや変形が生じやすくなる。
── ── ── ── ── ──

ここで言うタカタの「温度変化に対する安定的な性質を付与する技術」とは、相安定化硝酸アンモニウムの実用化技術のことであることがわかる。
そのタカタ社の2015年6月25日の記者会見でのインフレータの不具合についての説明はこうだ。

「インフレータ外に高温かつ多湿の環境がありますと、その空気は絶対量として多量の水分を含んでおります。こうした環境下に長期間インフレータをさらしますと、インフレータ容器内に少しずつ水分が侵入する可能性が出てまいります。インフレータ容器内に入りこんだ水分は温度変化の影響も相まって、さらにガス発生剤(※ 相安定化硝酸アンモニウム)内部に吸収される可能性が出てまいります。そしてガス発生剤内に水分が介在した状態で長期間が経過いたしますとガス発生剤内に気孔が生じ、表面積が増えるため、燃焼速度が上がる可能性があることが示唆されております。」

これは前出の火薬の専門家先生などの見解とは少しズレがある。
しかもすべての事象の発生は「可能性」でしかなく現時点では推論に過ぎないと断っている。
というか、そのように断りを入れることで責任回避を図っているようにも見える。
つまり、可能性が発現することが科学的に証明されないかぎり責任を取らない、という私企業にありがちなスタンスではないかと。
が、いずれにしても、相安定化硝酸アンモニウムは完全な密封環境下でしか実用化できないことは確かなようだ。
そして一連の事故はインフレータの密封性が損なわれていたことが一因であったと推察できる。

苦手な理系的基本情報の収集はこんなところで。
この先はやはり苦手な文系的社会的情報との格闘となった。
要するに勉強全般が苦手なわたし。


ヒューマンエラー

事故原因を、別の情報も加えて再度整理する。

インフレータ(ガス発生剤の収納容器)の製造工程で「いくつかの人為的ミス」によって容器の密封性が損なわれたことが伝えられている。
そして密封性が損なわれた容器に水分が侵入し、相安定化硝酸アンモニウムが吸湿して不安定化し、温度変化に耐えられずひび割れまたは穴が開き、それによりエアバッグシステムが作動した際の爆発力が異常に増大し、インフレータが破裂して死傷者を出すに至った。。。

では「いくつかの人為的ミス」とは何か?
報道によるとそれらは、

・米国とメキシコの工場で膨張剤の分量を自動チェックするシステムのスイッチが切られていた
・メキシコの工場で部品乾燥用の除湿器のスイッチが切られていた

…だそうだ。
そしてその背景には、「部品は製品の最終組み立てをする現地にて製造することで流通コストと人件費を抑える」という製造業全般の経営手法(ジャストインタイム納品)があるという。
タカタの場合は、ワシントン州などに現地法人を設立して製造に当たっている。
ではそれがなぜヒューマンエラーの背景となり得るのか?
それはこういう事情だ。
コスト抑制の観点から、工場はほとんどが郊外=田舎に建てられる。
そして複数の会社が同じ地域に立地することが多い。
すると労働者の奪い合いとなる。
都会に比べると教育レベルが決して高くない地方で数少ない優秀な人材を奪い合った果てに、それなりの程度の人材を止むなく採用することに至る。
こうして労働者の質の低さが様々な人為的ミスにつながり、製品の信頼性を損なう結果となっているのだという。

以上のことから、事故原因は複合的要因であることが伺える。
タカタはやはり昨年6月25日の記者会見で、人為的ミスについては対策が完了したと明言すると同時に、製造原理上の原因は特定できていないことを認めた。
その後は事故原因についての新たな発表は行なわれていないようだ。

この事件はアメリカ議会の公聴会で最大級の重大性を持って取りあげられたが、その後日本の関係自動車メーカー十社が共同でアメリカの専門会社に調査を委託した。
今年2月23日に調査会社が発表した最新の報告によると、事故の真因はこういうことになるそうだ。

【乾燥剤なしで火薬原料の硝酸アンモニウムを使う、高温多湿の環境で長期間さらす、インフレータの組み立てでの湿気防止対策が不十分(※ ヒューマンエラー)──という3つの要因が重なって異常破裂につながった】

これを受けてタカタも、この調査結果は同社が委託していたドイツの研究機関の調査結果と一致するとの声明を出した。
が、乾燥剤の件以外は、なんだかそれまでにすでにわかっていたことを繰り返しただけという印象だな。

が、思うに、ヒューマンエラーは伝えられている事例だけにはとどまらないのではないか。
様々な製品・システムの不具合・事故の背景にあるさらに重大なヒューマンエラーは、いかに重層的な安全システムを構築しても、それを設計したのは、また最終的に操作するのは人間であり、人間は必ず過ちを冒す存在であるという事実を失念していることではないのだろうか。
「失念している」は「目をそらしている」と言い換えてもいいかもしれない。

あるいは、人間が人間であるがゆえに生じる不具合のリスクについては、製造者側は折り込み済みなのだろう。
が、不具合の確率は数値化でき評価できるかもしれないが、それによって生じる人的被害というものは数値化・評価の対象外であることをどう捉えるべきなのか?
この点は今便のテーマのひとつでもある。


後手後手

このたびのリコール事件の構造を一言で言えば、福島の原発事故で露呈した東電と政府の隠蔽体質、無責任体質、エリート擁護体質、国民の事大主義、根拠無き楽観主義と相似形になっている。
さらに、後述する消費者心理が大きく影を落としている点でも共通しているように感じる。
が、ひとつ大きく異なっている点がある。
それは、当初からタカタと共同でエアバッグ開発を進めてきたホンダが、事故に関する情報提出の手法が不誠実だとしてタカタを見限り、タカタ製品の採用を取りやめたことだ。

「同社は生産・開発中のモデルにはタカタ以外を使用している」(ロイター)

この身内切り捨ての処遇の背景にあるものは、決してヒューマニズムや倫理観だけではなく、企業としての冷徹な思惑もあることは想像できる。
日本人離れした個人主義的思考の持ち主だった本田宗一郎を創業者に持ち、米国でも大きなシェアを持つホンダが今後どのような態度で本事件の処理に当たるか、注目していきたい。

なお、ホンダは2008年に第一回目のリコールを米国で行なったが、それは地域限定的なものであった。
が、その翌年2009年に、米国で初めての死亡事故が起こってしまった。
そして各国の自動車メーカーがリコールに踏み切ったのは、その四年後の2013年4月であった。

この大きなタイムラグの意味は一体なんだったのだろう?

またホンダが全米でのリコールに踏み切ったのは、それからさらに一年八ヶ月後の2014年12月であり、タカタが全米でのリコールに米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)と合意したのはその翌年であった。
この間に米国での死傷者は増え続け、2014年7月にはマレーシアでも死亡事故が発生している。
このように、メーカー各社の対策は後手後手に回ってきた感がぬぐい去れない。
それは、事故原因が現在においても特定できていないという実情によるのかもしれない。
が、見落としてはならないのは、これらの後手後手リコールでさえ、NHTSA の主導で行なわれてきたという事実だ。
NHTSA の、日本人には強権的にさえ見えかねない指導がなければ、メーカー各社の対応はさらに遅々としていたのではないかと想像するのはわたしだけではあるまい。
一方その間タカタは、調査段階で明らかになった事故に関するデータをホンダに逐次提供し続けていたが、ホンダはその提出手法に不信感を抱き、タカタを見限るに至ったという次第だ。

インフレータ破裂事故とリコールの概要の記録は取りあえずこの辺で。

・・・・・

わたしはリコールにどう対処したか?

前出のリンク記事の米国の少女のように、エアバッグが正常に作動すれば無傷で済んだはずの事故で、そのエアバッグの不具合によって死んでしまっては浮かばれない。
わたしに届いたリコールの案内ハガキによれば対策作業は短時間で済むという。
直ちにF社の担当販売店へ行って処置を受けるべし。
きょう行くべし。
電話した。
「(留守電)本日は定休日となっております」
えーい、また明日電話だっ。
…翌日の朝、そのまた翌日に出向くことを予約した。

さて、この問題について調べていたわたしは疑問に思った。

「破裂事故は外国でしか起こっていないということは、日本の工場で製造されたインフレータには問題がないのではないか?( 日本人労働者優秀だし)」

前述した部品の現地製造という製造業の一般的経営手法に沿って考えたわけだ。
であれば、日本国内でのインフレータの交換、すなわち made in japan のインフレータの交換はあくまで予防的措置だということになる。
つまり、緊急性は低いのではないか?(高温多湿環境に起因する相安定化硝酸アンモニウムの変質は比較的ゆっくり進行するという事実に照らして)
実はこの点を明らかにすることは、ユーザーのリスク管理の観点からは非常に重要なのだ。
というのは、今回の担当店による対策措置には、インフレータを対策品もしくは新品に交換するという作業と、新品を調達できない場合は暫定的措置として助手席のエアバッグの機能を停止するという作業が予定されている。
が、新品インフレータは現在は世界的に品薄状態であるので、実際の対策措置は始めから「エアバッグの機能停止」一択なのだ。
エアバッグが使えなくなれば、事故の際には助手席の乗員はリスクが格段に増す。
わたしは助手席が指定席のマイ奥さんを命の危険にさらすことになってしまうではないか。
では、このリスクと、インフレータを交換せずに乗り続け万一の事故の際にエアバッグシステムが作動しインフレータが破裂するリスク、いずれが大きいのか?
…そんなリスクの計算、素人にできるはずもない。
が、ある程度の見当をつけてでも判断材料とすることはぜひとも必要だと考えた。

で、恐る恐る運転して(国道●号線を走るのがこんなに怖かったことはない)担当販売店に着き、整備担当者と膝詰めで喧々諤々話した際、この点を確認した。

「インフレータの交換があくまで予防的措置であれば、新品が調達できるまで現状のままで乗り続けるという選択肢もあり得ると思うんですが。日本では破裂事故は起こってないんでしょ?」
「日本でも一件だけですが事故がありました。」
「!!…しぼうじこですか?」
「負傷で済みましたが、運転席の人でした。また弊社の車ではありませんでした。」
「…もうひとつ伺いますが、日本にも(タカタの)アメリカの工場で製造されたインフレータが入ってきている可能性はありますか?」
「入ってます(きっぱり)」
「!!!……」

ということは、インフレータに関してはなぜか「ジャストインタイム納品」の方針は採られてないということか。
ちなみに、米国タカタ製のインフレータはエアバッグが作動した際に破裂事故に至る確率はなんと50%と報告されている。
この数字を受けて米国の上院議員はタカタのインフレータを「作動中の時限爆弾」と表現した。

…どうする????

 ケース1.現状のままで乗り続ける
 事 故~破裂・負傷または死亡の確率 ≒ 50% × (米国製 ÷ 国内の全インフレータの個数)

 ケース2.エアバッグの機能停止措置を受ける
 事 故~負傷または死亡の確率=計算できない

新品調達がそう遠くない日であれば、機能停止措置を受けて待つのがベストだろう。
が…

「僕は月間 1,000km 以上走りそのうち二、三割は助手席に人を乗せます。きのうの電話で対策品が調達できるまでの日数は見通しが立たないと聞きました。仮に見通しが立つのであれば、エアバッグの機能停止をした場合、その間は助手席に人を乗せないようにするなどの具体的な対策を立てることができますが、見通しが立たないのなら手の打ちようがない。と言って現状のままで走れば運転者のリスクまで大きくなる。へんたい困ります」
「申し訳ありません…これは社●●なのですが…」
「!…(おおっ、いいぞっ)はい」
「実は●●の●●は●●●…という見通しです」

粘りに粘ってある程度納得がいく回答を得られてそれはよかった。ここには書けないが。
が、別の心配は残った。
わたしは、メーカーの企業としての姿勢を質した。

「念のためにおたずねしますが、万一の事故で助手席の人がエアバッグが機能停止されていたがために大きな怪我をした場合、メーカーさんによるなんらかの補償はあるんですか?」
「…ありません」

ハードとソフト両面の完璧な対策は、予想通り望めそうにないことは理解できた。
とまれ、わたしはあらかじめ考えていた今後の対策の一つ(それは次善の策ではあるが)が実現可能であると判断し、その場でエアバッグの機能停止措置を受ける決断をした。
作業の所要時間は20分ほどであった。

・作業内容/インフレータと衝撃センサーを繋いでいる配線を取り外す。インフレータが静電気等で誤作動しないように点火部の配線を短絡させる。インフレータは所定の位置に搭載されたままになる。

「モノは積んだままになるんですか?」
「そうです」
「静電気対策はしましたか?」
「はい」
「外部から引火することもありませんか?」
「ありません」


メーカーさんとお客様と

わたしは担当店からはまずまずの対応を得られたものの、自動車メーカーに対する不信感はぬぐい去れないままだ。
というのは、わたしにとっての本件の発端であるF社発のリコール案内ハガキ。
今便のはじめに掲げたその内容は、大いに問題ありだからだ。
文面はメーカーが運輸省に提出したリコール届けのコピペだと思われる。
が、これだけでは欠陥が引き起こす事故の具体性に乏しいし、深刻さも伝わってこない。
ユーザーに対する注意喚起が追記されていれば納得がいくのだがそれもない。
謝罪の言葉もどこにもない。
ハガキには、できるだけ穏便に終息させたい、そのためにユーザーに伝える情報はごく差し障りの無い範囲に留め、表現もごく事務的にしておきたいという意図がありありと見て取れる。
できればリコールに応じてほしくない、応じていただくにしても一斉に押し掛けてもらっては対応できないのでできるだけ緊急性を伝えたくない、というようにも受け取れる。
この態度は、タカタのそれと重なってはいないか。
接客現場の担当者の誠実な対応(と言っても、こちらが突っ込まなければごく事務的な対応に終始したであろうと推察しているが)とは相反するメーカー側のこのような責任回避的な態度は、ユーザーと販売店の双方の信頼を損なってしまうことに、いったいメーカーは思い至っているのだろうか。

それとも、わたしは日本人特有の消費者心理=お客様根性にどっぷりと浸ってしまっているのだろうか。
つまり、メーカーの本音は、このような事態が発生した一因は、高性能で安全で快適な製品を少しでも安く早く手に入れたいというほとんど不条理な「要求」を臆面もなくメーカーや店に押しつけ続けてきた消費者の態度にもある、というものであるかもしれないことに気付いていないのだろうか。

「我々は消費者の「ニーズ」(「要求」の代替語だ)に応えるべく企業努力を重ね苛酷な企業間競争を勝ち抜いてきたが、そのような異常とも思える強い負荷がかかるプロセスにおいては当然起こりうる予見不可能な不備・事故に対しては、不条理な要求を企業に押しつけ続けてきた消費者も責任の一端をになうべきではないのか」

メーカーの言い分にこのような一面があることは想像に難くないし一定の理解もできる。
それをお客様の座に居座ったままで、金を払う側の妄想的強権によって封殺することを当然視し、自らは何ひとつ作りだすこともせず、相も変わらず自身の汚れた欲望から発する低俗な主張ばかり垂れ流し続けるろくでなしの一人に、わたしは知らず知らず成り下がっていたのだろうか?

わたしはタカタ社の態度には、記者会見の動画からだけでも強い違和感を覚える。
そこには、自社の責任をなんとか軽く見積もろう、また少しでも対処を先延ばししようという、日本のそこかしこに散見する集団的防衛機制とでも呼べそうな態度が透けて見えるからだ。
もしやタカタには、なんとかしのいでいればホンダや行政が助けてくれるにちがいないという「日本人的な」思いもあったのではないだろうかと、いらぬ邪推までしてしまう。
が、そのホンダは、世界標準とも言える価値観・責任感の元に、タカタをばっさりと切り捨ててしまった。
ホンダを情け容赦なさ過ぎると責める人もいることだろう。
が、わたしは一ユーザーとして、ユーザーの安全・命を守ることを使命とする企業には、応分の責任感を持ってほしいと切に願う。
そしてここで企業に求める責任が、自分自身が交通安全の創造において担うべき責任と等価であるという意味において、わたしのこの願いはお客様根性とは一線を画するものであると考える。


「安全」と向き合う

またタカタは同会見で、「相安定化硝酸アンモニウムは安全である」と強調し「したがって、インフレータの対策品に同社の新品を当てることには問題はない」と述べた。
が、事故原因が特定されていない現段階においてこう言い切る態度はいかがなものか。
今回の事故はいくつかの複合的要因によって引き起こされたとタカタも認めている。
であれば、製品構成素材のひとつである相安定化硝酸アンモニウムが単体としては問題がない物質ではあっても、製造工程、製品チェック体制(タカタはこの二点の不具合に起因する問題は解決済だと言うが、その言が信用されるための土台がすでに揺らいでいるということに気付くべきだ)、ユーザーの使用環境などの様々な環境の影響下では必ずしも安全であるとは言えないことははっきりしている。
それを、単体として安全であるからとして同物質を用いた新品をリコール対象車に装着するという対策は、体のいい論点のすり替えであり、自己の責任を軽く見積もらせようとする一種の詐術だと思えてならない。
したがって、この対策には承服できかねるというのが正直な気持ちだ。

が、実際には他社の製品を代替品にするにしても、自動車メーカー各社のタカタ製品以外への乗換が急速に進む中では、代替品の確保もまた容易ではないだろう。
しかもなんたること、今年四月にはインフレータのシェア一位のダイセル社もまた、同社製のエアバッグの不具合による事故発生を受けてリコールの市場措置をしている。
こちらもやはりガス発生剤に不具合があったのだが、衝突事故の際にはインフレータが破裂したのではなくエアバッグが開かなかったそうだ。
(ダイセルはガス発生剤に相転移~破裂の恐れがない硝酸グアニジンを採用している)
また、タカタが相安定化硝酸アンモニウム以外の原料を用いたインフレータの製造に即刻取りかかることも不可能だろう。
いやそもそも、自分の車のエアバッグシステムにどのメーカーのインフレータを装着するか、自分で選ぶことすらできない。(販売店にもわからないそうだ。)
ということは、インフレータを交換した後も、リスクは、少なくとも「心理的には」回復しないということだ。
つまり、交換品がどこのメーカーのものであっても、その信頼性はこれまでのようにはユーザーの中に根を降ろすことは、もうない。
よって、このたびの事件により関係車両のすべてのユーザーは、運転の際の最優先事項である「安全」の一部を、今後は手放さざるを得ないことになってしまった。

もっとも、エアバッグさえ完備していればそれで乗員の安全を完璧に確保できるわけではないのは自明のことだ。
翻って、この件によってユーザーの一人としてわたしが思いを馳せるべきは、車社会全体の安全観であり、何より歩行者を始めとするいわゆる交通弱者の安全確保であるべきではないか。
運転者として、エアバッグという自己防衛システムに求める信頼度と同等以上の信頼度で、歩行者や他者の安全確保を達成しようと努めているかどうか?
わたしはこうした点に思い至り、今後はいっそうの安全運転のために自分にできることとして、まずは無理な運転スケジュールを立てないこと、日頃の整備点検を徹底することを肝に命じた。


「進歩」という権威

さて、文明の利器とは、常に何らかの危険・破壊と裏腹の存在であり、その被害を被るのは多くの場合様々な弱い立場の人だ。
そしてそれらの危険・破壊は、「進歩」という概念を原動力にして、非現代文明化社会が持っていた危険・破壊と置き換えられ、管理されているはずのものである。
われわれ文明人が常にチェックを続けるべきことのひとつに、この「進歩」という概念がある。
「進歩」を旗印にしてある危険を排除するために作り出したはずの利器が、逆にさらに甚大な脅威・危険・被害を生みだす場合があることを、歴史が証明しているからだ。
「進歩」の陰に何らかのエゴが潜んではいないか?
「進歩」を利用して一部の者だけが利益を享受していないか?
「進歩」を押し出す者が詐術を用いて他者を搾取していないか?
「進歩」の意味を狭めてしまってはいないか?
「進歩」はそもそも実在するのか?

人間の安全観は、多くの部分を「安心」という観念に占められているように思う。
そして往々にして、安心=心理的安全が得られれば物理的安全も確保できたように錯覚してしまう。
逆に、よしんば物理的安全を確保できても、心理的安全が得られるとは限らない。
実際には心理的安全と物理的安全とはまったく別物だ。
このたびのリコール事件を通して、車の運転においては、いや人の営みのすべてのフェーズにおいて、完璧な物理的安全など存在しないことが、またしても確認されたように思う。
それは同時に、完璧な心理的安全もまた存在しないことを明らかにする。
このことがあぶり出す課題のひとつに、甘い言葉で糊塗されたチープな利便性に翻弄され続ける消費生活の中で、こうした事実をわれわれが常に自覚していられるかがある。
そしてもうひとつのより大きな課題は、妄想的心理的安全を物理的安全にすっかり置き換えてしまう消費者心理と、それを知らず知らずあるいは知悉した上で食い物にしている企業心理を改めることができるかどうかだ。
これらが根本的に改まらないかぎり、この社会の様々な相において発生する自然災害以外の多種多様な事故の共通の真因、すなわちヒューマンエラーが減ることはないように思える。
つまり、心理的安全を物理的安全であると錯覚してしまう消費者心理と、事故の被害を確率と金銭という数値に置き換えるだけで個別の被害者の実情には思いが至らない企業心理とは、「進歩」あるいは「安全」「利便性」「効率」「利益」などの 『権威』の背後に隠れて思考停止し、自己責任を放棄してしまいたいという心理において通底しているのではないか。
両者はたとえあるときは被害者・加害者という立場に分かれても、「進歩」という旗印の元に集わされていつの間にか見知らぬ方角へ流されている無名匿名の衆であることにおいて違いはないのではないか。

権威は常に完璧で万能である。
それゆえに、人は権威に自己を委ねることができる。
権威に自己を委ねてしまった存在は、「探求」「気づき」「自発的行為」を放棄し、永久に「自由」を見出せなくなる。

タカタの社長は前述の記者会見でこう述べた。
「我々の会社は安全を生業として、商売をやってきております。お客様に安全を提供するのが我々の本分であるにも関わらず、残念ながら今回は我々の安全を提供すべき製品がお客様に被害を与えてしまった、そのことにつきましては痛恨の極みと思っています。」
言行一致を望む。


余 談 助手席とは?

ということで、ただいまマイ愛車は助手席のエアバッグが開かない状態で走っている。
奥さんは当分乗せない。
やむなく短時間乗せるときは後部座席に座っていただく。
その際には、インフレータが交換されるまでの対策として運転席前方に設置された料金メーターを作動させることになっている。
 おしまい。
 

16.07.20 記 
ツルアリインゲン

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巴だ リョウヘイ
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揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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自己紹介:
 
演奏活動歴/揚琴、27年。オカリナ、16年。
活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

京都府下農村在住。
雨乞い師見習い。
自然農見習い。
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