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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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つづいては、ゲスト演奏者についてだ。
二日間とも素晴らしかった。
どちらのゲストもすべてのわたしの生徒さんに、いやすべてのオカリナフリークに、いやすべての老若男女に聴いてほしかった。

一日目はオカリナの故郷イタリアはブードリオからやってきたモリネッラオカリナグループ。

拍手[2回]




16歳から27歳の男女計8名を、年齢不詳のちょっとお茶目なおっちゃんがまとめていた。
メンバーはイタリア人ばかりではなく、女性の一人は韓国人だったし、18歳の男性はスリランカ人だった。
そしてそのサウンドはと言えば、一曲目の出だしを聴いただけで目と耳が釘付けになってしまったわたし。
その音色は、われわれが日頃耳にするオカリナ合奏とはあまりにも違っていた。
が、それでいて想像していた通りでもあると、心は矛盾した思いに占められた。
想像とは、オカリナ合奏のサウンドとは本来こういうものではないかというイメージであった。
一曲目が終わった瞬間、わたしは舞台に向かって感銘と感嘆がたっぷり込められた声をかけ、早々にスタンディングオベーションを贈ってしまっていた。

二曲目の前にお茶目なおっちゃん先生のMCが入り、オープニングの興奮が少し落ち着くと、9本ものオカリナをどのように組み立てて編曲しているのか、わたしの関心はそこへ向かった。

オカリナのパートは、1番から6番だっけか7番だっけか、数字で呼ばれていた。
1番はソプラノC管より小さく思えたけれど、何管だったんだらふ?

1番オカリナで旋律を担当していた年長の小柄な青年のテクニックたるや驚がくものだった。
手のひらにすっぽり覆われてしまいそうな小さなオカリナの上を、それはものすごいスピードで指が走っていた。
交通課のおまわりさんならスピード違反で切符を切りたくなるにちがいない。
2番の女性も負けず劣らずのテクニシャンで、1番の男性との呼吸の合い方も尋常ではなかった。

続く3番は、主にオブリガードを受け持ち、ときに主旋律も吹いていた。
4番は中声部担当で、高音部と低音部とのつなぎといった役割だ。
男女二人の奏者が担当していた。

5番以下は低音部担当のオカリナだ。
それらはわれわれが普段よく使っているバスC管に加え、たぶんバスF管と、さらにバスC管のオクターブ下のコントラバスと呼ばれる管が2本採用されていた。
二人のコントラバスの奏者は共に女性で、その上の、たぶんバスF管をおっちゃん先生が吹いていた。
もどってバスC管を吹いていたのは韓国人の小柄な女性で、欠員の代役だということだった。

先に1番奏者のテクニックのすごさを書いたが、それはグループ全体の中で最も目につきやすいエレメントである。
が、オカリナ合奏のサウンドの創造という視点で見た場合、最も特徴的だと思われたのは中低音部の構成だった。
アマチュアのオカリナグループの多くが最低音部の担当楽器として使うバスC管は、むしろ中音部の担当と位置付けられていた。
それはときに前面に出て自由に歌った。
そしていっそう重要な役割は、ベースラインを明確に表現することだった。
この点については後に詳しくふれたい。

たぶんバスF管を吹くおっちゃん先生の指の動きは、このパートが全体のリズムの要であることを示していた。
開始と終了のきっかけを出していたのも先生だったし、要はおっちゃん先生が中心のグループなのだ。ヘアスタイルからしてもそれが自然だし。
休符で必ず指を指穴からはずす動きがたいへんリズミックであり、特徴的で印象的であった。

おっちゃんの下では2本のコントラバスが低くうなり続けていた。
それはけっして咆哮することはなかったが、それにも増して深い声色で、聴くものをときには地底に、ときには黄泉の国にまで引きずり込むかのようであった。

さて、そのコントラバス管とバス管の関係に、このグループのサウンド作りのひとつのポイントが秘められていた。
このふたつのパートはオクターブでユニゾンで吹くことがたいへん多かった。
つまり、バスCとコントラバスで同じメロディーを吹くということだ。
そのねらいはこうだ。
ベースラインは通常の器楽合奏では最低音部を担当する楽器が受け持つのが基本型だが、オカリナ合奏の場合は、コントラバス管だけでは音が引っ込んでしまう。
特にそれぞれの管において低音部になるほど音が小さくならざるを得ない宿命を持つオカリナでは、たとえコントラバスを2本にしても、全体の中では弱くなってしまう場合がある。
それを、バス管がオクターブ上でコントラバスと同じラインを吹くことで、ベースラインは鮮明になり前面に出てくるというわけだ。
それはパソコンの画像処理で行なうコントラストの強調と似ている。

バスFがその役割を果していた場合もあったように思う。
その場合、よりパワフルな音になる。
オーケストラで多用されるこの技法を、このグループはオカリナアンサンブル上にうまく採用していた。
この技法はバスとコントラバスの間だけではなく、様々なパートの組み合わせで用いられていた。
全体を振り返ると、コントラバス管の最重要の役割は、ベースラインを前面に押し出すことやリズムを支えることよりも、全体のサウンドに厚みと奥行きを与えることであったように感じた。
それはパソコンの画像処理に例えればシャドーの付加のようでもあった。


存続の危機にある元町高架下商店街(モトコー)

 
 

さらに彼らの編曲の素晴らしかった点として、各管の足りない音域をとなりの管が補う手法が多用されていたことが上げられる。
つまり、1番が高い音から低い音へ下がってきて、さらに低音へと進みたいが音域が足りないことがある。
そんなとき、2番がその先を引き継いで吹くというケースだ。
もちろん、その逆に進行する場合もある。
それを実行するのは簡単ではない。
両者が完全にメロディーとリズムはもちろん、何より抑揚を完璧に共有していなければ実現できない。
そのようなテクニックを信じられないほどのスピードでやってのけていた。

編曲の上で多用されていたもうひとつの手法は、いくつかのパートには奏者を複数配置して、場面によって奏者を振り分けるというものだった。
たとえば、そのパートが吹く音が低い音域にあるときは二人で吹き、高い音域にあるときは一人だけで吹く。
こうすることで、全体の中でのそのパートの音量のバランスをコントロールしやすくなる。
そのパートの音をフォルテにしたりピアノにしたりもできる。
引いては、全体の音量のコントロールもたやすくなる。
加えてこれは想像だが、手の空いた方の奏者が他のパートの応援として吹く場合もあり得る。
見ていると、全員で吹くフル演奏の場面は意外に少なかったように思う。

このように見ていくと、9人編成ではあっても9部合奏であるわけではなく、実質は4部から6部ほどの音で構成される曲が大半であること、それは演奏形態としてもっとも無理無駄がないことがわかる。
こうした手法・形式は、ヨーロッパ音楽の世界が長い時間をかけて築き上げてきたものだ。
このイタリアのグループには、それらが身に沁み付いているように感じられた。

案の定メンバー紹介では、全メンバーがオカリナ以外の楽器を勉強してきて演奏できることが伝えられた。
それらはピアノであり、チェンバロであり、ギターであり、バイオリンであり、そしてフルートであった。
こうした音楽的素養が、若きオカリナ奏者である彼らにとっていかに重要なバックボーンであるかは、彼女たちの曲・編曲に対する理解と表現力に満ちた演奏が雄弁に物語っていた。

オカリナはもともとは、合奏用の楽器として作られたという。
各管の音域も今より狭かった。
オカリナの創始者とされているジュゼッペ・ドナーティは、「オカリーナ」を作り始めた一年後には早くも五人編成のグループを結成し、イタリア各地を演奏旅行して回っていたと記録されている。
先日のモリネッラオカリナグルーブの合奏は、ドナーティの時代の合奏を彷彿とさせるものであったに違いない。
そしてその発展形であることにもまた疑いを入れない。
今の日本のオカリナシーンをそのような見地から俯瞰すると、ずいぶん偏った状況にも思える。
それは一言で言えば、合奏というオカリナに限らずあらゆる演奏の完成形についての、本当の意味での関心が薄いというものだ。
これは音楽としてはいびつな状況だと言える。
音楽の成り立ちと可能性を理解せずただ心の赴くままに音を放ち続けるのであれば、そうさせているものは音楽的な素養の不足にちがいない。
それはまだしも、そこに思いが至らない状況だけはなんとかしなければ、たとえばいくら子供の世代にオカリナを伝えようとしても、オカリナフリークの未来は開けないのではないだろうか。
そんな疑問に対するひとつの解答としても、モリネッラの演奏は息づいていた。

なんだか評論家口調になってきたので、この件はこの辺で。
 次回でいよいよ最終便。
 

16.07.26 記 
夜食、鱧素麺はとてもおいしかった

「エビスビールあります」にひかれて一人でふらりと入ったこの店で大将となんとなく話し始めた。
「にいちゃん、どこからや?」「京都」「仕事か」「うん、すぐそこで」「文化ホールか」「うん」「…オカリナか?」
なんとこのお店、明日の昼はオカリナフェスティバル関係のお客さんの予約で満員だと聞いておどろいた。
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管理人について

HN:
巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

コンタクト方法/上記のホームページ(HP)の「FAQ & Form」のページからどうぞ。

特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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