#118 1：660

#118　1：660

　演奏屋というものは、自分の都合で動くことはできない。何月何日の何時にどこそこへ来いと言われれば、その通りにするしかない。間際になってキャンセルしようものなら、ギャラがいただけないばかりか、場合によっては損害賠償を請求されてしまう。よって、有給休暇や定休日はあこがれの対象である。
　そのかわり、そこへ行って演奏をしさえすれば、演奏に要する時間やお客さんにうけたかうけなかったかに関わらずギャラをいただける。
　ジャズピアニストの山下洋輔さん曰く、演奏稼業の本質とは「そこへ行くことである」。深くうなずく。

　あれはいつのことだったか、熊本は阿蘇山中の自然派レストランにお招きいただいた。京都の山奥のウチから大阪南港まで車で3時間、門司までのフェリーが12時間、門司から会場までが4時間で、計往復38時間。
　で、演奏時間は1回1時間を2日で計2時間。このときの演奏時間と移動時間の比率は、1：19。

　あれはいつのことだったか、横浜で演奏した。京都の山奥のウチから横浜市内まで500 km、車で往復20時間。
　で、演奏時間は30分。演奏時間と移動時間の比率は、1：40。

　あれはいつのことだったか、大阪のど真ん中のスタジオで某健康飲料のテレビＣＭの音楽を録音した。ウチからスタジオまでが、往復でざっと5時間半。
　で、スタジオにいた時間は2時間だが、採用された演奏はＣＭだから30秒。採用演奏時間と移動時間の比率は、1：660。

　おしまい。　

ヤマカガシ

2007/08/03 (Fri) 揚琴演奏的生活 TRACKBACK() COMMENT(0)