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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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#641 ピアニッシモ

 ワタシにはたくさんのオカリナの生徒さんがいる。あんまりたくさんすぎて、顔も名前も憶えていない生徒さんも多い。レッスン会場へ入ると、知らない人が何人もいる。いや、知らないんじゃなく憶えてないんだっけ。で、あんた誰とは言えないので、知ったかぶりを通す。他のメンバーがその人の名前を呼ぶ機会をじっと待って、名前を憶える。が、翌月には忘れている。

拍手[1回]


 そんな調子だから、いつ誰が入ったのかなんて、まるでわかってない。毎月五十人くらい入ってくるが、誰がどれくらい吹けるかわかってなくてもレッスンはできる。その場で良くない所を見つけては「ずいぶん良くなりましたねー。で、次はそこが課題ですねー」などと、さもその人のことをよーく把握しているようなことを澄ました顔で言う。

 もちろん、誰がいつやめてもわからん。毎月二十人くらいやめていく。これは対処に苦労する。楽譜に書き込まれたパート割りと生徒さんが手にしている楽器を見比べて、その人が誰だったかを思い出すことが多いからだ。
「えーっと、山田さん、この曲ではAC管の人はSF管の音をよく聴かねば」
「・・・わたし、鈴木ですけど」
「え。だって、ACは山田さんって書いてある・・・」
「山田さんは先月退会したじゃないですか」

 そんな中で、その人がやめてしまうことがなかなか受け入れられないバアイもある。
 先月から、おつきあいの長い生徒さんが相次いで退会を申し出られた。このたびは個性的な方ばかりだったので、ワタシでもお名前をしっかりと憶えていた。そしてどなたも、ついこの間まで、やめるなどというそぶりはこれっぽっちも見せておられなかった。むしろ、近頃ますます熱心になられた、丈夫に、ちがった、上手になられたと感じていた人ばかりだった。
 だまされたのだらふか。何のためにこんな手の込んだだまし方をしたんだらふか。そんなにワタシが憎かったのだらふか。

 とにかく錯覚、その個性的な人たちがオカリナを吹いている姿が、笑顔が、大きな笑い声が、出会ったときのことが、レッスンでのやりとりが、大笑いさせられたときのことが、何かの拍子にほんの一瞬心が通い合ったときのことが、次々と思い出されるのだ。それらの記憶は、ワタシにとっては今でもその人自身であって、どうしても「思い出」という固定化され風化していくのを待つだけの別種の記憶に置き換えることができずにいる。

 残されたメンバーの気持ちは計り知れない。たびたび舞台という極限状況・修羅場を共にくぐり抜けてきたがゆえの連帯感は、大きな大きな喪失感を生むにちがいない。あるときは友人であり、あるときは同志であり、あるときは家族のようでもあり、またある人にとっては良き相棒であった人がいなくなることは、たとえ多人数のグループであっても、その人の代わりはこの世のどこにもいないという思いを強めるばかりだろう。

 昔の大演奏家の言葉に、こんなのがある。
「曲を演奏し始めることは、子供にだってできる。が、大人だけが上手に終わることができる。それも、ピアニッシモで」
 素朴な思い、単純な動機で始めたオカリナ。が、それをいつどうやって終えるかは、オカリナに、グル-プ活動に深入りすればするほどに容易ではなくなる。自らの幕引きを、笑顔のうちに、見事に「ピアニッシモで」行ない得た生徒さんたちに、惜しみない拍手を送りたい。

 おしまい。 
10.07.06 記 
庭の女王
ダリア

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HN:
巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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