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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
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#531 宝

 変わらないものに接したとき、人は自身の変化を鮮明に知る。変わらないものは、人にとって鏡となりうる。自身の変化を実感したとき、変わりゆく自分の姿がどうあれ、変わらないものにはいつまでも変わってほしくないという願いが生じる。それはこの鏡が、かつての良き自分をも映し出し、甦らせてくれるからだ。

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 一年ぶりに訪れた第二の故郷。車でほんの20分離れた観光地的集落では、今年最高の人出だった。にぎわう観光地からこの奥地への道中、古い家がなくなったり新しい建物が建ったりケイタイのアンテナが立ったり猫がホームレスになったりイタチがアライグマを生んだりという小さな変化は見られたものの、山々や川面や家並みはまったくと言っていいほど変わっていない。そしてこの奥地の第二の故郷の風景も、拍子抜けするほど変わっていなかった。で、この地に足を踏み入れた途端に、しめきった車窓を透過して染み入ってきた別世界の様な静寂は、これこそがワタシが知るこの地のエッセンスであったことを、一瞬にして強烈に思い出させた。

 車を降りるや否や旧知の人と言葉を交わしたが、その相変わらず快活で人間味あふれる口調と背景の深い静寂とのギャップは、あの世で先に逝った人と再会したときとはこんな感じなのではないかと思わせるような、不思議な臨場感を持たせた。それは、あまりにこの世離れしていたその場に、人との会話がようやく臨場感を保たせていたという感覚、と言えばいいだろうか。

 原始的とでも形容したくなる静寂の中に一年ぶりに身を置いたとき、そこに自分のこの一年の有り様が映し出された。ワタシは、騒音とともに生き、内部に騒音をため込みつつあったのだ。ワタシはこの地にたくさんのゴミを持ち込んだような、軽い引け目を覚えた。
 十二年間のこの地での暮らしで、静寂の力と価値を知り、少しは自分のものにしたつもりでいた。が、その後の暮らし方によっては、それは次々に湧き起こってくる雲におおわれてしまうようだ。その雲は、内面から湧いてくるものであるがゆえに、常に吹き飛ばしつづけなければ、すぐに心の静寂をおおいつくしてしまう。その雲を吹き飛ばす力を持つものが、ワタシにとってはこの原始的な静寂だったのだ。

 静寂の前では、音楽は無力だ。音楽は雲を吹き飛ばすものではなく、雲をしばらくの間、隅へ押しやることができるだけだ。
 が、音楽には二種類あるように思う。静寂とつながっている音楽と、つながりを持たない音楽だ。人が静寂とつながりを持つとき、そこから生まれる音楽もまた、静寂とつながりを持っている。そうした音楽が、雲を隅へ押しやることができる。

 とは言え、この静寂の中で暮らす人にとっては事情は少し異なる。
「相変わらず静かでありまするな」
「静かすぎるわい。昼も夜も変わらん」
 この地の誰もが、なんらかの賑わいを求めているのは当然だ。人には静けさだけではなく、活気も必要だ。が、人々の活気は往々にして静寂を破壊してきた。静寂の破壊は活気を得るための代償であるかのようだ。はたして静寂と活気ある賑わいは、二者択一するしかないのだろうか。

 静寂とつながりがある音楽が存在するように、人が静寂とつながりを持ち続けるとき、そこから生まれる活気と賑わいも、静寂とつながりを持つのではないか。つまり、その賑わいと静寂は共存できるのではないだろうか。
 きょうこの地の人たちと話し、みなさんがけっして破壊を伴う賑わいを望んでいないことを確かめられて、それはよかった。「静寂こそ宝なり」だったとさ。

 おしまい。 
09.11.23 記 
ある集落の民宿の前にて。
左から草取り機、足踏み脱穀機、唐箕、臼。
農機具
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管理人について

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巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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