#672 名 言

#672　名　言

　田舎では、あちゃこちゃで稲刈りが行なわれている。たわわに実った稲穂は美しいなあ。刈り取った後の田んぼは、なんだか寂しいなあ。人ごとではない。マイ田んぼもそろそろ稲刈りだ。それは、いよいよ明後日だ。その模様を取材に来る地元ケーブルテレビ局さんが、きょうは下見と打ち合わせとプチ取材においでになった。が、その期待に、まったく応えられないワタシ。

「田んぼというものは、手をかけなければこうなりますよ」という見本だ。こんな田んぼはどこにもあるまい。草茫茫。稗やメヒシバやコナギのまにまに稲が見え隠れしている。ほとんど耕作放棄地だ。・・・ん、不耕起栽培だから、始めから完ぺきに耕作放棄地だったっけ。
　と仁鶴、今年はまったく手をかけられなかった。それに、苗の生育期に世話ができなくて、低水温で弱らせてしまったのが致命傷だった。

　が、手をかけずとも稲は実る。強い。負けない。ちゃんと「実るほど　頭を垂れる　稲穂かな」的姿態になっている。もっとたくさん植えたかった。もっともっと手をかけたかった。残念だなー。
　いや、テレビ局さんの方がよほど残念そうで、それはよかった。

　取材に来たＮさん。農業立国の当地でこれまであちこちの農家で取材をし、すっかり農業通だ。ウチのやり方に対しても理解を深められた模様だ。ウチは農家・農業じゃないけど。
　Ｎさん、マイ田んぼの縁にたたずみ、大きなカメラを肩に乗せたまま、
「（不耕起栽培は）むずかしいですねー」
　を連発する。農家の田んぼの出来高や見栄えと比べりゃ、むずかしそうに見えるんだろね。が、ウチは「家庭田園」だ。自分たちだけの勝手な思いを込めて、自分で勝手な理屈をこねて、仕事の合間に無理のないペースで好き放題やってるだけだ。結果にはこだわってないから、むずかしいなどという意識はミジンコも無い。稲もまた、種を播けば勝手に芽が出て運が良ければ実るという、普通の植物のひとつだと思っている。無欲でつきあえば、むずかしいことなど何もない。

　Ｎさん、とうとう「これはとても高度なやり方である」と言った。ん、皮肉ではなさそうだ。
「何がそんなにむずかしそうに見えるであるか」
「どうすればうまくいくか、答が見えないである」
　ワタシは思わず言い放った。
「笑止。自然には答なんかないものと存ずる」

　う～む、我ながら名言だ。みなさま、このたびは自画自賛をお許し下さい。これこそ、ワタシが十七年間の田舎暮らしで学んだことが凝縮されて、心の底から噴出した一言だと思えたのだ。なんでこのときに限ってカメラ回してなかったのよ。

「自然には答なんかない」心の中で何度も反芻した。すると、目の前が明るくなり、ますます力が湧いてきた。スーパーポジティヴだ。ヒントをくれたＮさんに多謝だな。もっとも、あちらは「いっぱい穫れました～、感動しました～、みんなで食べました～、とってもおいしかったです～」てな番組になりそうになくてやきもきしてるだろうけれど、んなこと、ワシ、知らんもんね。こっちゃただの家庭田園なんだってば。

　おしまい。　
10.09.28 記　

2010/09/29 (Wed) 田舎暮らし TRACKBACK() COMMENT(1)