#667 秋 刀

#667　秋　刀

　デリカ形式のメシ屋で昼飯を食べた。焼きサンマが特売になってたので、たくさんの人が食べていた。三陸産・北海道産でそれはよかった。

　サンマを食べる人を、見るとはなしに見てたんだけどね。オレとは食べ方がちがうんだよ。で、「見るとはなしに」がそのうち「じっと見る」になっちゃった。んでも、よほど美味いんだらふね、完全にサンマの味覚の世界に没入しちゃってる。オレの視線なんかまるで気づかないって感じ。

　で、周りで入れ替わり立ち替わりサンマを食べている人を見てたん。で、わかったん。実にいろんな食べ方があるん。三人三様、五人五様だね。

　尻尾の方から食べてるご婦人がいる。表側の身を尻尾の方から少しずつ、お箸で削るようにして食べていく。で、ハラワタから上がきれいに残してある。なんだよ、サンマはハラワタを食わなきゃ。

　小骨を、お箸で、一本一本、ていねいに取り除いている若い女性。髪の毛のやうな細い小骨を、一本一本、お箸でつまんでは、お皿の端に積み上げていく。ひたすらお骨拾いでなかなか食べない。

　サンマの皿をでんっと置くと、すぐさま両手でサンマの頭と尻尾をつかんで、腹の辺りにがぶっと食らいついた体格のいい男性。しばらくして、骨をぺっぺっと吐き出す。動物的だ。

　なんだか悪戦苦闘しているのは、オレの真ん前にすわった若い男性。食べ進みながら骨を少しずつ取り除こうとする。が、骨をうまく取れない。皮を残そうとするが、これもうまくいかない。ときどき箸を両手に一本ずつ持って、身に突き刺して、身を引き裂いている。ハラワタは残したようだが、もはや原形を留めていない。食べ終わった跡は修羅場だ。

　まず、背びれの下の身に箸を付ける。次第に腹から尻尾の方へ進む。表側を食べ終わったら骨を取り除く。で、裏側を食べ始める。最後にエラのすぐ横の身を、そこにある苦い肝を食べないように気をつけて食べる。頭とハラワタは残す。このパターンが複数。たぶん、多数派では。が、サンマはハラワタと苦い肝を食わなきゃ。

　あれはいつのことだったか、焼き魚の食べ方を教わった。その見事さにうなっちゃった。
　頭が左側にあるとして、まず、エラの右側の、頭と背骨の継ぎ目の辺りに箸を入れる。で、二本の箸で身を、背骨に沿って尻尾まで裂いていく。
　次に、尻尾＝尾びれの付け根の身をぐるりと裂いて背骨を露出させる。左手で尻尾を持って、箸で身を押さえながら、尻尾と背骨を持ち上げるようにして背骨を身からはずしていく。できれば頭も背骨に付けたままいっしょにはずす。
　これで、皿の上には魚の身だけが横たわってるってことになる。そのとなりには、まるできれいに食べ終わったあとのような頭と背骨と尻尾。

　えっ、知ってるってか。知らなかったのはオレだけかよ。

　とにかく、ここから先は思い思いに食べればよい。サンマだったら、大根おろしを乗っけてスダチをしぼって醤油を垂らして、ハラワタごとがぶりっだな。悪いかっ。

　おしまい。　
10.09.18 記　

色づき半ばの紫式部

2010/09/19 (Sun) 雑　感 TRACKBACK() COMMENT(0)