#615 インパクト

#615　インパクト

　ある朝、マイ田んぼへ向かう途中の林道で、前から近所のＡさんご夫婦が歩いてきた。犬も連れて、朝のウォーキングと見える。昨年は、田んぼは草が生える、虫が付く、獣が入る、挙句は台風が来るとさんざんおどしていただいた方だ。で、秋のマイ田んぼの出来高はかなり意外だったようだ。

「おはようございます、はははっ」
「お早う御座居まする」
「はははっ、田んぼですか」
「・・・」
「はははっ、そうですか、田んぼですか、はははっ」
「ほほほっ、田んぼですか、ほほほっ」
「田んぼですか、はははっ」
「ほほほっ」
　行ってしまった。

　田んぼ内に苗代を作っていると、車が停まり、窓からＢさんの顔がのぞいた。他の人の田んぼを手伝いに行った帰りのようだ。で、いきなり、
「巴ださんやＫさんのやり方だと、だんだん草が生えんようになるんだってな」
「・・・」
「おれはそういうのは嫌いじゃ。機械でちゃっちゃとやってしまうのが好きじゃ」
　あんたはどうかなんて、誰も聞いてないんだけど。
「でなきゃ、金で買う」
　誰も聞いてないってば。

　苗代に水を引き入れていると、すぐ向こうの田んぼを切り盛りしているＣおばさんがやってきた。
「そこは、なに、池を作るんか」

　となりの田んぼのＤさんは、かつて高校で農業の先生をしておられた方だ。
「巴ださん、種籾は何を播くんですか」
「ウチで穫れたＫヒカリの籾などを」
「Ｆ１というのがあってね、一代限りの種で、播いても発芽しないタネのことですな。Ｋヒカリは交配種だから、Ｆ１の可能性が高いですな」
「・・・去年、播いたら芽が出ましたが」
「・・・これはこれは、いらんことを言いましたですな」

　超ベテラン農家のＥさんが車を停めた。
「そこは何を播いたであるか」
「籾」
「・・・そらまた、今年も楽しみであるな。籾の処理は如何に」
「水で選別のみ」
「薬を使わんと、バカ苗病とゆーのが出るな。あそこのＴさんもな、自分で苗を作ってるがな、電熱機で。発芽率がええから、バカ苗病がいっぱい出てな。おうちは発芽率が、そうか、地面に播いたらそう良くはないか。けど、バカ苗病とゆーのがあってな、苗がひょろひょろ〜っと・・・」

　Ｆさん、水を張ったマイ田んぼを見て、思いもよらないことに驚く。
「ふーん、いい感じになってきてるなー。二年目ではこんな風に草が生えんようには、なかなかならんものだぜ」
「・・・そこ、草、引いたのであるが」
「えっ、いつ？」
「四、五日前」
「！？・・・足跡がないっ」

　まったく、人というものは、何をどこから見て、何を感じるのか、さっぱりわからなくて、おもしろすぎる。

　おしまい。　
10.05.13 記　

通りがかるみなさんにインパクトを与えた苗代作り。遺跡の発掘のようだ。
　

2010/05/14 (Fri) 田舎暮らし TRACKBACK() COMMENT(0)