#433 適材適所

#433　適材適所

　適材適所という言葉は、建物を建てるときに、梁にはこの材、柱にはこの材、というように、目的に合った種類の材木を当てることだった。それが転じて、人の能力や個性に適した役割分担を決めるという意味になった。んなことは、誰でもそう言えばそうだったなと思い出すにちがいない。が、実際に適材適所を行なうことはなかなかむずかしい。

　ガチョウコンサート、略してガチョコンでの裏方の役割分担を、たくさんのガチョウさんたちこと出演者こと生徒さんたちに割り当てることになったセンセイことワタシ。日頃の人物観察力が試されるときだ。

　受付の設営要員は、腕力がありそうなグループにお願いした。もちろん、選任の本当の理由は伝えない。「みなさんはチームワークがいいから、すばやく設営していただけると思いまして」などと適当に言っておく。

　舞台転換要員は、舞台に上がりたくて仕方がなさそうないくつかのグループにお願いした。もちろん、選任の本当の理由は伝えない。「みなさんは舞台に上がっても堂々としておられると思いまして」などと適当に言っておく。

　さかのぼって、会場の予約は、抽選になる可能性があったので、悪運、もとい、くじ運が強そうなグループにお願いした。甲斐あって、希望日をピンポイント・無抽選で予約成功。

　舞台袖でワタシの右腕となって働くスタッフは、ワタシのどんなえらそうな命令にも素直にしたがいそうな、ワタシより年下のグループにお願いした。

　プログラムの折り作業とアンケートのはさみ込み作業は、手先が器用そうなグループにお願いした。なし崩し的に、アンケートの回収箱の準備もお願いした。で、アンケート記入用の鉛筆をけずらねばならないのだが、このグループが電動鉛筆削りを持っていることがわかり、迷わずお願いした。

　受付要員は、ほぼ全員に交替で受け持っていただくことにした。が、中には受付に適していないガチョウさんもいるにちがいない。やってきたお客さんに「いらっしゃいませ」と言うでもなく、仏頂面でプログラムを手渡す。「入口はどこですか」とのおたずねに、無言で指差す。演奏中に入場しようとする人の前にだまって両手を広げて立ちふさがる。

　開場時刻前後のいちばん入場者が集中しそうな時間帯の受付要員は、地元のグループにお願いした。あわよくば、その場でともだちや家族をつかまえて、何かのお手伝いに引きずり込めるやもしれないと考えたからだ。

　今年で四回目のこのガチョコン。出演者であるガチョウさんたちだが、もちろん裏方だけではなく、客席で仲間の演奏を応援し、楽しむ時間を持ってもらうことになっている。が、いつの間にか完全にお客さんになってしまう人もいる。舞台を見れば、よく知った人たちが自分も吹いたことがある曲を演奏している。なぜか右から二番目の譜面台の前に誰も立っていない。
「あっ、あれはワタシのグループだっ」

　おしまい。　
09.05.12 記　

野生化した大手鞠。某峠にて。

2009/05/13 (Wed) オカリナ TRACKBACK() COMMENT(0)