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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
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#491 生の密度

「二十四の瞳」を見た。公開された1954年といえば55年前だ。終戦から高度成長期にさしかかった頃とはいえ、当時はまだまだ時がゆったりと流れていたというイメージを持つことは、時代というわけのわからないものに追われ、走りつづけて来た現代人として自然だと思える。「二十四の瞳」は、やはり多くの場面で時間の流れ方の現代との違いを垣間見せた。

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 二十四の瞳は、1928年から1946年までの瀬戸内海の小さな島を舞台に、小学校の分教場に赴任してきた若い女性教師と、その年に入学した12人の児童の生活と成長と愛を、島民たちの運命を翻弄した戦前の社会の動向を背景に描いた作品だ。主演は高峰秀子。ほかに笠智衆ら。

 主人公「おなご先生」は、子どもたちを頭ごなしに叱りつけることは決してない。また学校へ来られなくなるなど苦境に立たされた子には、口だけのなぐさめは決して言わない。二人きりで会って、自分はたいしたことはしてあげられない、ただあなたが悲しいときは、先生の所へ泣きに来なさい、先生もいっしょに泣いてあげるから、とだけ言う。それゆえに、いつまでも生徒たちに心から慕われつづけた「愛の人」だ。

 さて、当時と今とでは時間の流れ方が違うといっても、劇中の人々の語り口は現代と少しも変わらない。ただ、会話のワンフレーズにおける話者と受け取り手の集中力が、現代に比べてずいぶん高いように思う。長いセンテンスでも、よどみなく語り、心静かに聴く。その際、相手をじっと見る目はまったくゆるがない。まず、この点に時間の流れ方の違いを感じる。

 そして、映画の製作面においても当然違いは現れる。全般にワンカットが長い。そして、パンニングがゆっくりだ。また、アップが少なく、人物はほとんど全身のショットで描かれている。
 この人物の撮り方は、一見時間の流れ方と無関係のように思えるが、これはワンカットの長さと関係があると思う。ワンカットが長いので、対象をアップで急いで見せる必要がないのだ。

 また、この映画の背景を彩どる音楽は特筆ものだった。それらは、二三の軍歌を除けば、ほとんどがワタシがオカリナの教材として取り上げてきた曲だった。
 七つの子、荒城の月、故郷、朧月夜、春の小川、埴生の宿、アニーローリー、庭の千草、星の世界、そして浜辺の歌。ほかに仰げば尊し、蛍の光があった。このうちの何曲かは、BGMとしてだけではなく、実際に登場人物が歌う場面もあった。特に七つの子と浜辺の歌は重要な役割を果たした。
 で、これらの曲が歌われるとき、痛烈に時間感覚の違いを感じた。歌われた曲は、ほとんど2コーラス以上、フルで歌われた。その間、カメラはほとんど歌っている人物と聴いている人物だけをゆっくりと追い続ける。現代の映画ではまず見られない手法だ。

 話は少し戻る。登場人物の語り口のスピードは、現代と変わらないと書いた。それでいて、随所に登場人物と製作者が作り出す時間の流れ方の、現代のそれとの違いを感じる。ということは、当時の人々と現代人とは、時間感覚そのものは違わず、時間の使い方が違うのではないだろうか。つまり、先を急がず、その場にじっくり取り組み、その場をじっくり味わうということだ。

 その場にじっくり取り組み、その場をじっくり味わうという生き方は、時間の密度を濃くするはずだ。で、現代で時間の密度と言うとき、それはある区切られた時間内にどれほど多くのことを成しとげるかという意味だろう。が、果たしてそうか。

 思うに時間の密度とは、生の密度のことなのだ。生の密度とは、何を成し遂げたかで決まるものではないように思う。それはおそらく、その場その時にいかに深く愛したかが決めるのだ。
「おなご先生」の愛は、時間の深き流れを作り、輝き、子どもたちを照らしつづけた。そして映画を見た日本中の人々を照らしたことだろう。

 おしまい。 
09.09.06 記 
猪の足跡
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巴だ リョウヘイ
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職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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自己紹介:
 
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演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
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所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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