#218 何を可笑しいと思うか

#218　何を可笑しいと思うか

　何を可笑しいと思うかは、人それぞれだ。ジョーク、オチの類いは、わかる人にはすぐに大ウケするが、わからなかった人に何がおもしろいのかを説明しても「へぇ〜、そう」で終わることがほとんどだ。
　さて、この世には、このことについてはけっして笑ってはならないというタブーが存在する。そのことについて笑ってしまったら、「笑った人自身が」必ず苦しんでしまうので、けっして笑ってはならないのだ。

　あれはいつのことだったか、とても不思議でかわいらしい笑い方をする女性がいた。「ははははは」という笑い方は少しもめずらしくないが、この人のそれは、ひらがなの「は」という字が、口から順番にほとばしり出てくるのが見えるのだ。それはたいへんテンポがよく、しかもやわらかな音色だ。文字で表せば、「は・は・は・は・は・・・」
と、まあこんな感じだ。彼女の口からほとばしり出た「は」の字は空中で広がって、部屋中に充満してゆく。

　ある酒の席で、ワタシが彼女にそのことを指摘すると、彼女は「は・は・は・は・は・・・」
と笑った。ワタシは再び指摘した。
「そうそう、それ、それ」
　と、彼女はまた「は・は・は・は・は・・・」
と笑った。
「それ、それだってば」
　ここで彼女は、自分の笑い声を、初めて客観的に聞いてしまった。そして、その可笑しさに、笑った。
「は・は・は・は・は・・・」
「そう、それ、それ」
「は・は・は・は・は・・・」
「ははは・・・」
「は・は・は・は・は・・・」
「・・・・・」
「は・は・は・は・は・・・」

　それは果てしなくつづいた。

　おしまい。　
08.02.29　　

今年いちばん積もった日

2008/02/29 (Fri) ちょっと笑える話 TRACKBACK() COMMENT(0)