#250 シンプル・イズ・なんだっけ？

#250　シンプル・イズ・なんだっけ？

「たくさんのいい編曲を残していただいて一生感謝します」などと言っていただけたとしたら、それはもったいない。
　オカリナの教材としての伴奏用ＣＤを作るときは、まず編曲をするのだが、この際作譜ソフトで楽譜を作る。Finale というソフトはよくできていて、楽譜の各組段にソフトに内蔵された楽器の音を割り振れば、五線譜の上に配置した音符をそのままプレイバックできる。強弱とテンポの細かな設定もそのま表現してくれるので、たちまち伴奏用カラオケができあがってしまう。

　このように書けば、あっと言う間に伴奏ＣＤができあがってしまうように聞こえるが、これが実際はなかなかそうはいかない。いろんな処理をし、「もうひと手間」をかけていると、一曲編曲・録音するのに二日も三日もかかってしまうことが多い。いきおい、眼と身体に結構な負担がかかる。ぱそこん上の楽譜をいくら拡大しても、拡大できない情報もかなりあって、それらは眼をこらして見つめるしかない。作業に入り込みすぎたおかげで、これまで眼をやられたこと、寝込んだことが何度かある。世の作・編曲を主たるナリワイとしておられるみなさんは、軒並み Finale や Cubase といったソフトを使っておられるようだが、そのご苦労は察して余りある。

　年に何度かの、各グループの教材作りが重なるころはタイヘンだ。そんなわけで、健康のためということで、できるだけシンプルな伴奏を作るように心がけることにした。まことに気楽な稼業だが、それが結局は、オカリナの音色を生かすことにもつながるし、シンプルで効果的なものを作るという制約を自分に課することは、新境地が開けることにもつながるのだ。

　ところが、そのような決意をして半年もたったころ、気がつけばまたまたずいぶん細かく複雑な編曲になってきてしまっている。Finale の最新版を使い始めて調子に乗ってしまったこともある。Finale 最新版導入に合わせて先日からばそこんは ２０インチの Macintosh を使うようになったが、これでも眼がしんどくなる。 シンプル的方向へたずなを締め直さなければ、また寝込んでしまう。

　このようにどんどん複雑なものを作る方向へと進むことは、実はたやすい。シンプルなもの、最小限のものを作る方が実はむずかしい。あれもこれもと、たくさんの音、楽器を散りばめれば、見栄えがいいものができあがる。が、それはこの場合、主たる楽器であるオカリナを生かすこととは反対の方向なのだ。

　が、使用者である生徒さんの側には、派手で見栄えのいいものが喜ばれる。ワタシが見栄えがいいものを作ってしまうことの誘惑と戦っているというのに、「もっと、もっと！」と、派手なものを暗に要求する。
　きっと、ワタシが眼精疲労とストレスからくる過労で死んでしまったら、「たくさんのいい編曲を残していただいて一生感謝します」「センセイの生演奏入りの伴奏ＣＤを作っていただけないなんて、もうオカリナを吹けません」「もっと長生きして、もっとたくさんの編曲をしてほしかったです」くらいは言ってくれるんだろうな。でも、過労死の認定は受けられないだろうし、ワタシのオカリナ用伴奏の編曲は一般市場で販売されているわけでもないので印税も入らないし、残された同居のよく知ったご婦人は、せめて楽譜集を作って残さなかったワタシをうらむだろうな。

　音符一個につき￥１、という価格設定で編曲を請け負おうか。

　おしまい。　
08.05.06　

編曲したある楽譜。シンプルにしたつもりが。

2008/05/07 (Wed) 音　楽 TRACKBACK() COMMENT(1)