#712 各々鹿々 3

#712　各々鹿々 3

「ゆうべは『赤毛』のところの子どもが帰って来なかった」
「その子が『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』の方へ行くのを見た者がいるぞ」
「では『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』の上で『大いなる遠吠え』に撥ねられたにちがいないな」

「『大いなる遠吠え』が『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』の上しか走らないのはなぜなのだ」
「『大いなる遠吠え』は『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』がなければまっすぐにしか走れないのだ。昔『大いなる遠吠え』が二匹の大蛇と戦って勝ち、その骨を自分の道として使っているのだ」
「あんなに長い大蛇にどうやって勝ったのだ」
「大蛇が『大いなる遠吠え』に巻き付くと、火の花が弾けて、大蛇は黒こげになったという」
「恐ろしいな。鹿は『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』には、近づかない方がいいな」
「そうだ。が、『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』は、我々が何百年も使ってきた獣の道を断ち切ってしまったから、皆どうしても『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』を横切ってしまうのだ」

＞ ＪＲ東海によると、同社管内でシカと列車の衝突事故は２００８年度に５１４件あり、０５年度の２倍に増えた。（朝日新聞／2010年12月17日）

「そう言えば『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』の近くで、イヤな臭いがしたことがあるな」

＞ ■ＪＲ各社の主なシカ対策
　線路脇に固形せっけんや芳香剤を散布（釧網線）→カラスに持ち去られ効果なし（同）

「『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』の側で、狼の臭いを嗅いだという者もいる。それに、初めて嗅ぐ恐ろしそうな獣の臭いもしたそうだ」
「それはウワサにすぎない。その後そんな臭いを嗅いだ者はいない」

＞ 線路脇にオオカミの尿、ナフタリンを散布（紀勢線、高山線）→雨で流れ効果続かず
＞ ※その他、各地でライオンのふんの散布を試行（同）

「いつの間にか『どこまでもつづく二匹の蛇の骨』まで来てしまったな」
「なんだこれは。栗のイガがたくさん並んでいるぞ」
「気にするな。『大いなる遠吠え』には関わりがないさ」

> 釘を打ち付けた侵入防止マットを踏切に設置（紀勢線）→踏み越えられ効果なし　（同）

「俺は、たくさんの仲間を殺した『大いなる遠吠え』を赦せない。今夜、決着を付けてやる」
「よせ、『やぶにらみ』。『鼻息』の二の舞になるぞ」
「なあに、俺は『鼻息』みたいに正面から体当たりしたりはしない。横っ腹を角で突いてやるんだ。来たっ、『大いなる遠吠え』の遠吠えだっ。行くぞっ」
「よせ、『やぶにらみ』、よせってばっ・・・あーーーっっ」
　パァァァァーー、キーーーーッッッ

「ご乗車中の皆様にお知らせいたします。ただいま鹿と接触したため、停車しました」
　これまで列車に撥ねられた数千頭の鹿のうち、少なくとも二頭は、ワタシが乗り合わせた列車が撥ねた鹿だった。

　おしまい。　
10.12.18 記　

2010/12/19 (Sun) 自然・環境 TRACKBACK() COMMENT(0)