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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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#716 淡々粛々

 何年か前から気になっていたお店。特に目立つ作りでもなく、評判を聞いたわけでもないのに、前を通るたびになぜか気になっていた小さな古びたレストラン。が、特に思い焦がれていたというほどでもない。その日は、目指した他の店が閉まっていたから入ることになっただけだった。

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 玄関のドアを開ける前に、木枠のガラス窓越しに厨房の中が見えた。古びた、しかしよく手入れされた風のキッチンで、実直そうなご主人が柔らかな表情で仕事をしておられた。ただそれだけのことが、ワタシとよく知ったご婦人に大きな安心感を与えた。

 が、入ってみて出ばなをくじかれた。宴会の小団体が入っている。しかも閉店時刻まであと30分余りだ。店員さんはみんな疲れているにちがいない。こんなときは、どうしても一見客の扱いがぞんざいになってしまう。まあ、たいして期待もしてはいなかったので、あきらめて席に着いた。

 新聞を広げて待つことしばし。で、運ばれてきた料理を見てたまげた。ごく平凡なセットものプラス一品を注文したのだが、思わず「こんなにたくさん注文した覚えはないのである」と叫びかけた。さて、味は、どうか。

 なんだ、このジューシーなエビフライはっ。新鮮なエビ、良質の油、程よい揚げ加減。絶品だ。しかも三匹っ。
 なんだこの白身魚の煮付けはっ。素材の味を生かすとはこういうことか。それは、ただ薄味であれば良いというものではない。ぎりぎりの火の通し加減と、絶妙の味付けによって、素材の味プラスアルファ、繊細の極みの味を創造している。
 茶碗蒸しには、ユリネと銀杏がきっちり入っている。
 エビフライは言うに及ばず、サラダのドレッシングも、エビフライのタルタルソースも、二種類の漬け物も、フライドポテトも、全部手作りだ。
 このコリコリしたものは・・・数の子だっ。数の子を酒粕と白味噌で和えるとはっ。この食感、ほんのり舌を包む複雑な甘味と旨味、ううっ。
 ワタシはいよいよ、おそるおそる、チキンの唐揚げに箸を伸ばした。・・・ああっ、ううっ、なんだこの唐揚はっ。新鮮な鶏もも肉。一切の余分な味付けは無い。片栗粉と小麦粉の絶妙なる配合。そして湯気が立つ良質の油の中にもぐって確かめたかのような揚げ加減。香ばしい。ジューシーだ。とろけそうだっ。ああっ、ううっ。

 とうとう、スーパーMを超える唐揚げと出会ってしまった。

 唐揚げも数の子も煮付けもエビフライも、旨味がグラデーションのように広がり続けた。
 それより、宴会客の後、閉店前に飛び込んできた一見客にすぎないワタシたちに、隅々まで手を抜くことなく心を込めた品々が、当たり前のように提供されたことに感動した。この「当たり前のように」が大事だ。変に愛想を振りまくこともなく、むろん居丈高になることもない、ごく自然な空気が、このお店には満ちている。

 今日的に見ればあまりに良心的な価格設定ゆえだろう。失礼だが、お店の内外装や目につくものは、よく手入れされているとは言え少々古めかしいままだ。が、料理を始め店内のすべてに、柔らかなお顔のご主人の生き様が映し出されている。常々精進を怠らず、当然のことを淡々と行ない、粛々と提供する。もって来客と従業員関係者の幸せと為す。合掌。

 おしまい。 
10.12.27 記 
朝日を浴びて霜輝く
朝霜
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管理人について

HN:
巴だ リョウヘイ
性別:
非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
ほしい。
自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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