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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
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きょうの京都市内は38℃でそれはよかったかどうか。
岡崎の京都国立近代美術館までわざわざ行った。
青木繁展を観るのだ。
二十八歳で夭折した天才画家。
天才という冠は、夭折した人にこそふさわしい。
そのような作家は、往々にして老成している。
青木繁も例外ではなかった。
が、「海の幸」は、老成という域さえ超えていた。

拍手[3回]


青木の全作品に通じる色彩感がある。
土色なのだ。
海辺が描かれたものでも、むしろ赤茶色い岩が存在感を放っている。
そして、ほとんどの輪郭はややぼやけている。
滲んでいると言った方が適確かもしれない。
土色と滲んだ輪郭は、見る者と画の間に独特の距離感を創り出すように感ぜられた。

それでいて、青木に最大のインスピレーションを与え続けた素材のひとつが、青い海であったことは疑いを入れない。
実際、海を題材にした作品は多かった。
いずれもモネの「睡蓮」のようなタッチの青海原と白波、そして磯の岩肌。
そこには描けども尽きない青木の海への想いが込められていたように思う。

人物画など、売るために描いたと思われる絵も多かった。
それらの人物は明らかに美化され、演出され、媚びていた。
が、そんな絵でもそこに描かれた海だけは、いつもの青木の海なのだ。

青木のもっとも有名な作品「海の幸」を目にしたことがない人は少なかろう。
その重要文化財は想像よりも小さく、全作品の流れの中ほどに何気なく展示されていた。

「海の幸」は、他のどの作品とも、何もかもが違っていた。
砂浜の上を獲物を担いで歩く全裸の男達。
彼らの表情は他のどの人物画よりも真正であった。
大漁の喜びをめいめいの心に納めた、苦難を乗り越えてきたゆえの深みのある、それでいて穏やかな顔。
飾らない、あるがままの、それゆえにむしろ神々しい顔、顔。
また、背後に見え隠れする海原。
それはまばゆい光を放つ他の海の絵とはまったくちがう、重々しい色彩の、苦難の海だった。
そして、男達の周囲には、彼らの動きの残像のような光彩が描かれている。
こんなものは、他の絵にはワタシは見いだせなかった。
ワタシの感じでは、この残像がこの絵の独創性のもっとも顕著な発露であり、男達の姿に宿った神々の祝福を際立たせていた。

青木は、西洋風の動的で官能的な表現で古事記の世界を多く描いた。
ところが、ワタシは「海の幸」にこそ、もっとも強く神話性を見いだしたのだ。
この絵は、1904年(明治37年)に千葉県布良にて描かれたものだ。
それでいてこの絵は、はるか古代の情景に見える。
漁師の男達こそは、綿津見を司る神々を体現している。
まさに永遠を今に見る神話的感覚。

絶筆となった「朝日」は、夜明けの海と空と朝日を描いたものだ。
この海もそれまでの海とはまったく違っている。
ゆったりとうねる海面は、初めて海の厚みと深みを描き出していたように思う。
日輪に照らされ、ただ表面が輝き始める、途方もなく分厚い水の層が、そこに有った。

 おしまい。 
11.07.10 記 


海の幸

海の幸


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「海の幸」エピローグ
「海の幸」は「全作品の流れの中ほどに何気なく展示されて」いました。
ところが慌て者のワタシは、ああ何故か「海の幸」が展示されている一角だけを飛ばして、順路を最後まで進んでしまったのです。
もちろんすぐに気が付き、後戻りして「海の幸」の前に立ちました。
が、間違いなく、奇しくも編まれたそのオリジナルな鑑賞順序のお蔭で、貧弱な鑑賞眼のワタシにも、「海の幸」を他の作品から際立たせている何かを、自分なりに感じることができたように思います。
巴だ EDIT
at : 2011/07/11(Mon) 10:40:58
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揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
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演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
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所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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