#734 MKちゃん

#734　MKちゃん

　MKちゃんは、Cちゃんのともだちだ。ウチにピアノのおけいこの日によくいっしょにやってくる。Cちゃんと同級生だったかどうか忘れたが、全校生徒が１７名だから、みんな同級生みたいなものだ。MKちゃんは、なかなか活発なCちゃんとは対照的で、おっとりとして物静かで、お顔も体格もどちらかといえばふくよか系だ。で、なんというか、へんたい不思議な女の子なのだ。

　そのMKちゃん、きのうも、Cちゃんといっしょにピアノのレッスン室に入ってきた。Cちゃんにつづいて「こんにちはー」と言ってすーっと上がってくると、そのまま丸い座卓の前にCちゃんと向き合って座り、ランドセルを肩から下ろし、やおら学校のノートと教科書を取り出して宿題にとりかかった。ピアノの前にはMIちゃんが座っておけいこをしている。ここでは、ピアノのおけいこの順番待ちないしおけいこが終わってともだちを待つときは、たいていの子が座卓（それは年代物の古びたちゃぶ台で、ピアノのレッスン室にはまことにミスマッチな代物ではあるが、みんなに愛用されている）に向かって宿題をしている。小学生もへんたいだなー。
　MKちゃんは、その日もそのまま静かに宿題に精を出していた。

　で、MKちゃん。いつもCちゃんといっしょにやってくる。おけいこが同じ日にあるからではない。実はMKちゃん、ピアノの生徒ではないのだ。ただときどきCちゃんといっしょにやってきて、ごく自然に宿題をしたり一人遊びをしたり、ときどきついおしゃべりをして先生にしかられたりしているだけなのだ。特にピアノに興味を示すわけでもない。それが、まるでなんの違和感もなく、すっかりその場に溶け込んでしまっている、へんたい不思議な子なのだ。

　ワタシが子どもの頃にも、こんな子が何人かいたような記憶がある。呼ばれてもいない上級生のお誕生会にいつの間にか上がり込んで、いつの間にかいっしょに遊んでいるばかりかごちそうのおよばれまでしてしまった子。お寺の境内で遊んでいたら、いつの間にか混ざって遊んでいたとなりの小学校の知らない子、などなど。MKちゃんを見ていると、そんな風な不思議な子どもたちを思い出してしまう。で、こんな子がまだいるんだなー、という感慨にふけってしまう。

　MKちゃんは、いつの間にかワタシとも顔見知りというかおともだちというかになってしまい、外で出会ってもにこーっとしてくれる。ふくよかで、もの静かで、とってもやわらかなオーラのMKちゃんを、よく知ったご婦人もワタシも大好きだ。
　先日、近所のガソリンスタンドで出会った。車の中からMKちゃんが手を振ってくれた。MKちゃんとは対照的にほっそりとした弟くんがいっしょだった。
　後日、久しぶりにMKちゃんがウチにやって来た。ご婦人が言った。
「この間はガソリンスタンドで弟くんもいっしょだったねー」
　と、MKちゃんはふくよかなほっぺたをぷーっとふくらませて、むくれた。
「あれ、おにいちゃんっ」
　女性としてのプライドが傷ついたMKちゃんが初めて見せた怒った顔だったとさ。

　おしまい。　
11.02.13 記　

きょうの綿雪

2011/02/14 (Mon) 田舎暮らし TRACKBACK() COMMENT(0)