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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
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#738 受け継ぐもの

 きのう、T市のある公民館へオカリナのレッスンに行った。玄関を入った所に小さな図書スペースがある。そこに置かれている背の高い本棚は、通路との間仕切り代わりになっている。その通路側を通りかかった時、いちばん上の棚に目が止まった。「少年少女世界の名作文学」という全集が置かれているのを見てオドロイタ。今のワタシの精神的ルーツのひとつとなった本たちではないか。

拍手[2回]


 この全50巻の一冊の厚さが電話帳ほどもある全集。読んだのは、小学校一年生から三年生にかけてだった。今の自分の感性や想像力は、この全集によって培われた所がへんたい大きいと思っている。手放してから少なくとも二十五年は経つ。背表紙に作品名が書かれている。憶えがあるタイトルがいくつも目に飛び込んできた。
 先日、「海底二万里」を再読した話を書いた。実はかつてあの物語を読んだのは、この全集でだったのだ。このたび「海底二万里」を読み終えてからわずか四日目の思いがけない再会。またしても、なんという奇遇なのだらふ。

「海底二万里」が収録されていた「フランス編」には、同じくベルヌの「八十日間世界一周」「十五少年漂流記」が収録されていた。ほかに「巌窟王」「学問のあるろばの話」「風車小屋だより」を憶えている。イギリス編では「宝島」「ジキル博士とハイド氏」「シャーロック=ホームズの冒険」「失われた世界」、アメリカ編では「白鯨」「アンクル=トムの小屋」「トム=ソーヤーの冒険」「オズの魔法使い」「モヒカン族の最後」、ソビエト編は「偉大なる王」イタリア編「チョンドリーノ」といった所が思い出される。

 が、いずれもストーリーはまったく思い出せない。タイトルを見て思い出せるのは、せいぜい「設定」だけだ。シャーロックホームズはロンドンで助手のワトソンと私立探偵をやっていたことは憶えているが、どんな事件を解決したのかは皆目記憶にない。宝島はどこにあって誰がそこへ行ったのか。王(ワン)と呼ばれた虎の物語は、老人が夜道でワンとばったり出会った時にワンが道を譲ったシーンしか思い出せない。チョンドリーノに至ってはアリの冒険の話だったことしか憶えていない。それでいて、それぞれの物語の「印象」だけは心に深く刻み込まれている。

 子どもたちの精神を大いに高ぶらせた珠玉の物語たち。が、少なくともワタシのバアイは、半世紀もしないうちにそのストーリーは忘却の彼方だ。では、これらの作品は、ただ一時的熱狂を与える娯楽に過ぎなかったのか。
 断じてそうではない。なぜなら、前述の通り、ワタシの中ではいまだにそれらの物語が与えた強い印象が脈打ち続けているからだ。
 幼少期からその後数十年も脈打ち続けるほどの強い印象は、人の感受性のひな形を形作る。それは人がその後受け止めることとなる様々な刺激を、感動という形で適切に再生し、良好に消化するための道具となり器となっていく。それゆえに、印象が永く息づき続けるという事実こそは、作品が人の精神生活の基盤作りに貢献した証なのだ。

 それゆえに、あらゆるクリエーターが真に後世に伝え残し得るものは、ひとえに「印象」なのだと言ってよいと思う。受取手の側から見れば、印象とは人の心がもっぱら受け継ぐものだということになる。音楽は形が残らない。が、聴く人の心に印象が残るという点では、他のジャンルの芸術作品と何ら変わりがないのであったのだったのだとさ。

 おしまい。 
11.02.22 記 

家北方
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巴だ リョウヘイ
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非公開
職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
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自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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