#368 年賀状

#368　年賀状

　２００８年の暮れは、現金輸送車が襲われたというニュースはほとんど聞かなかった。めずらしいことだ。大量の現金を扱うところの警備体勢は年々厳重になっているということか。が、新年早々にそうした事件が起こらないとも限らない。

　２００９年１月１日午前、京都府下で年賀状配達の郵便局員のバイクが次々に襲われた。ケガ人はいない。盗まれたものは配達途中の年賀状だけ。犯人は局員がバイクをはなれたスキに犯行に及び、自転車で逃走。目的は不明。

　１月３日午前１０時、犯人が再犯に及んだ際、バイクで犯人の自転車に追いついた局員が犯人をあっさり組み伏せ、駆けつけた警察官が逮捕。犯人は京都府下在住の自称音楽家の中年男。家宅捜索を受けた自宅から数万枚の年賀状が押収された。動機について本人は「子どもの頃、郵便局が年賀状を一枚も届けてくれなかったので敵討ちをした」と話しているが、不可解な点が多く、真の動機の解明が待たれる。

　京都府警田舎署の優しい取り調べの模様。
　刑事「お年玉くじ付きの年賀状の当たりくじが目当てだったのだろう」
　犯人「ちがいまする。あれには当選などないと思ってまする」
　刑事「なぜそう思うか」
　犯人「一度も当たったことがないからでする」
　刑事「では、盗んだ年賀状をどうしようとしたか」
　犯人「誰からも年賀状をもらえない孤独な人や、年末に住むところを追われて年賀状を受け取れなくなった人に配ってあげようと思っておりました」

　その後、さらに真の動機らしいものが判明してきた。
「昔は年賀状は正月に心を込めてゆっくりと書くものだったのに、今はいそがしい年末にばたばたと書かなければならないのがいやだった」
「いつも出した枚数よりももらう枚数の方が少ないのがくやしかった」
「家族の幸せそうな写真ばかり送られてくるのが辛かった」
「年賀状にまぎれてくだらないＤＭが舞い込むのがうっとうしかった」
「形だけの年賀状をやりとりするという無意味な慣習に終止符を打ちたかった」
「年賀状用に大量の紙が使われるため、熱帯雨林が次々に伐採され、地球環境にダメージを与えているのを食い止めたかった」
「年賀状にかける費用の一部でも世界中の恵まれない人々のために役立てた方がずっといい新年になると思った」

　男は、年賀状に対する私憤と義憤に苛まれて短絡的に犯行に及んだ模様。男は精神鑑定の結果、かろうじて責任能力ありと判断され、一審で「結果として郵便業務に対する社会の信頼を失墜させ、社会に少なからず不安を与えた」として懲役三年の実刑判決を受けた。が、全国から数十万の減刑嘆願の署名が集まり、控訴審での判決への影響が注目されている。

　・・・今年の全国の元日配達分の年賀状は４０億枚だそうだ。
　と言いつつ、今年も年賀状を出すワタシだったとさ。

　おしまい。

　

08.12.31 記　

みなさんにも年賀状を。

元日のウチの松。雪がうっすらと。