#102 ある朝

#102　ある朝

　3匹のたぬきが井戸に落ちた。ウチの井戸は深いが今は水がほとんどない。その底で、たぬきたちは寄り添って困っている。
　ちょうど、きのうから向かいの家の軒先に長いはしごが立てかけてあったことを思い出した。このはしご、カラスが屋根のソーラーシステムをがんがんとこづいて悪さをするので、お向かいのおじさんが屋根に上って対策するために立てかけたところが、雨がふってきてそのままになっているのだ。

　おじさんがいないので、勝手にはしごを持ち出してきて、井戸の中に差し入れた。たぬきたちはじっとワタシを見ている。
　はしごが底に着いた。が、たぬきたちはどうしても自力ではしごを昇ってこれない。しかたなくワタシは、ゆっくりと底へ向かっており始めた。

　と、そのとき、「ヴイ〜ン、キキキッ、グワ〜ッ」と、どこからか草刈機の騒々しい音が聴こえてきた。向かいのおじさんがウチの裏の丘で朝早くから草刈りを始めたようだ。
　はっとして向かいの家を見れば、はしごはきのうと変わりなく軒先に立てかけてある。

　意識がだんだんはっきりしてきた。そう言えば、ウチに井戸なんかなかったっけ。

　梅雨どきは寝覚めが難解でファンタジックになるようだ。

　おしまい。　

アカツメクサ