#75 「永遠」としてのアート／１

　染色作家の志村ふくみさんが、著書の中に、素晴らしい絵画は、それがそこにあるだけで空間に「結界」を作り出してしまうと書いておられた。そこに一歩立ち入った者の心の有り様をすっかり変えてしまい、そこが聖なる領域であることを「一瞬にして」心身に理解させてしまう空間、それが結界である。志村さんは、フェルメールの絵を例に、このことを語っておられた。

　フェルメールの絵には、まことに尋常ならぬ力がある。数年前に大阪で初めてフェルメールの原画にふれたときにワタシは、繊細で、日常のごくありふれた光景を題材にした小さな絵ばかりであるのに、あの力はいったいどこに秘められていて、どのようにして我々に働きかけてくるのだろう、と、深く考えてしまうことになった。計算され尽した構図だろうか。淡く微妙な独自の色彩だろうか。絶妙なデッサンだろうか。線を面として浮き上がらせる影だろうか。それとも、それらすべてのバランスだろうか。
　フェルメールの絵は、われわれが日常のありふれた光景にほんの一瞬永遠を感じたときの、あのまれな感覚を思い起こさせる。フェルメールの絵には、「永遠」が封じ込められているにちがいない。

　つづく。