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揚琴、オカリナ & インディアンフルート奏者がつづるいろいろばなし。
音楽、田舎暮らし、自然・環境、時事、ほかいろいろ。
どうぞ、ごゆっくり。
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 ずいぶん以前だが、京都のあるお寺を訪れたとき、たまたまそのお寺で開催していたあるアーティストの個展会場となっていた一室を訪ねた。庭から踏み石を踏んで、その白壁の部屋の敷居を一歩またいだとき、空気が外とまったく違っていることに気づいた。それは、そこに漂っていた音楽のせいだった。
 それは、カザルスによるバッハの無伴奏チェロ曲であった。
 ほんの数小節聴いただけでそれとわかるカザルスの演奏。であるのに、鑑賞体験の記憶は聴くたびにきれいに一掃されてしまい、常に新たな、いや、永遠のカザルスの音世界へと導かれてしまう。
 そこで聴いたカザルスは、カザルスであると同時にバッハであり、人間を超えた何者かでもあり、その音は日常の領域に属さない、別の領域、異次元を現出していた。そこでは自身の肉体は忘れ去られ、時間は消え去り、ただ過去と未来を同時に現在として表現してしまう音楽だけが漂っている。その音楽は、まさに「結界」であった。

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 何がカザルスの演奏をそのようにしているのか。偉大なる指揮者フルトヴェングラーに「カザルスの音を知らない人は、弦楽器の鳴らし方を知らない人だ」と言わしめたその音色だろうか。ここからあそこへと一瞬に、しかし無上の思いやりと優雅さをもっていざなうフレージングだろうか。人に内在するもっとも繊細な部分からもっとも高揚する部分まで自在に増幅するダイナミクスだろうか。心身の深部をゆさぶり、しかも限り無い安定感を与えてくれるリズムだろうか。それとも、それらすべてのバランスだろうか。
 カザルスの演奏は、われわれが日常のありふれた光景にほんの一瞬永遠を感じたときの、あのまれな感覚を思い起こさせる。そうなのだ、フェルメールの絵と同じく、カザルスの音楽には、「永遠」が封じ込められているにちがいない。

 カザルスの音楽にしてもフェルメールの絵にしても、偉大な芸術作品は分析を受け付けない。有機的総体としてそこに存在するのみである。人間の肉体を分析し、パーツを分類しても、それらを総体として生かしているものの正体は結局は知り得ない。偉大なる芸術作品に対する分析は、そのような作業と同じ運命をたどる。
 音楽について言えば、その実体はおそらく、人間の肉体を生かしているもの、そのものではないかという気がしている。

 さて、永遠こそ、この日常の時間に支配された領域とは異なる、異次元の世界なのだ。永遠とは、果てしない過去と果てしない未来の連続した姿としてそこにあるものではない。過去と未来がひとつになった、現在そのものの真の姿なのだ。それはこの現実世界と重なりあっていて、手を伸ばしさえすれば、いつでも届くのだと言われる。
 しかし悲しいかな、時間と思惑に支配されているわれわれは、立ち止まって永遠に向かってそっと手を差し出すただそれだけのことが、すでに最も困難なこととなってしまっている。
 われわれは、現実を現在であると見なしてそこに生きているつもりだが、実際は過去に生きている。なぜなら、現実世界を支配する予定や思惑とは現在や未来に属するものではなく、過去の記憶から発しているからだ。すなわちそれらは、過去そのものなのだ。われわれは、未来に過去を投影することで、現在を見失い、真の未来を食いつぶしている。

 永遠と現実世界を自在に行き来できることが、人の幸せなのではないだろうか。そして巨匠の作品が結界であるとともに、巨匠の存在そのものは、われわれを彼の世界へといざなう道標なのではないだろうか。

 おしまい。
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管理人について

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巴だ リョウヘイ
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職業:
揚琴・笛演奏屋 オカリナのセンセイ
趣味:
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自己紹介:
 
演奏活動範囲/全国の都心から山間地まで。
演奏場所/ホールからお座敷まで。オカリナは野外歓迎。
演奏目的/オープニングセレモニーから追悼演奏まで。
演奏形態/独奏から異業種間共演まで。
所属事務所/Magnolia Music(自分的オフィス)

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特 技/晴れ男であること。

オカリナ倶楽部 “夢見るガチョウ” 主宰。

2018年、京都府下農村から大阪府下住宅街に移住。
今も雨乞い師見習い。
今も自然農見習い。
ノアのおとうちゃん。
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