#289 アニー・ローリー

#289　アニー・ローリー

　アンコールにもいろいろある。客席がアンコールを要求しなければ損だと考えている場合、司会者などにアンコールの要求をなかば強要されてする場合、形式的にする場合、演奏者へのお情けでする場合、そして心からのアンコールだ。昨夜（７月２６日）は、心からのアンコールをいただいて感激した。久しぶりの２時間近いフル・ソロコンサートだったが、ラストの「波紋」も響きのいい会場にごう音となって響き渡り、怒濤の拍手と「ブラボー！」のうれしい声につづいてアンコールとなった。ワタシが取り上げた曲は「アニー・ローリー」だった。

「アニー・ローリー」は「蛍の光」と同じくスコットランドの歌だ。やはり日本語の歌詞が付けられて親しまれてきた。様々な訳詞があるが、ワタシは堀内敬三作のものの二番が特に好きだ。「愛にかがやく　君がまなざし　まことこめたる　君がささやき　とこしえまで　とこしえまで　忘れじ　アニーローリー　わがいのちよ」いつもこの歌詞を歌いながら演奏している。

　さて、昨夜の演奏会場は、京都府福知山市の福知山市芦田均記念館だった。広々とした緑の田園地帯のただ中に建てられた同館は、同じ地所に残されている芦田均元総理大臣の生誕の家とともに、芦田の足跡を今に伝えている。
　芦田均は、外交官として西洋各国に赴任し、国際感覚を身につけ世界のあるべき平和の概念を培った後、衆議院議員となり、第一次吉田茂内閣が憲法改正に着手した際、衆院憲法改正特別委員会の委員長として、日本国憲法の成立に深く関与した。「平和条項」と呼ばれる第９条の第二項に施された修正は「芦田修正」と呼ばれ、戦後の日本の歩みに大きな影響を与えている。
　芦田均は音楽が好きで、家族には音楽の道へ進んだ人も何人かある。そのような背景もあって、同館では年に一度コンサートが催されている。そして今年は、芦田均没後５０周年の記念追悼事業として「揚琴独奏コンサート」が開かれた。
　ワタシは「追悼演奏屋」として（追悼的演奏の数では右に出る演奏屋はそういないと思う）、憲法９条を私的に支持していること、会場がとなり町であることもあって、このたびのご依頼にまことに不思議なご縁を感じていた。

　良い音楽ホールのような響きが得られた多目的ホールからは、大きなガラス窓越しによく手入れされた日本庭園を見渡せた。コンサートは、お庭に静かに夕闇がせまる絶好の時間帯の中で進められた。そして星が見え隠れする中でのアンコールでアニー・ローリーが奏でられたとき、揚琴のまわりに詰めかけたたくさんの人がいっしょに口ずさんだりハミングしたりしてくださった。「波紋」で上り詰め、その最後の一音が消えいったときに一気に解放された会場のエネルギーは、アニー・ローリーでふたたびなごみ、平和でフレンドリーで幸せなバイブレーションを発していた。弾きながら、すばらしいひとときをみなさんとともに創造し共有できた事を感じ、芦田均氏の業績を思い、胸にこみ上げてくるものを押さえることができなかった。

　この日のアニー・ローリーを、ワタシは忘れることはないだろう。館長始め関係各位とスタッフのみなさま、そして初めてお出会いしたお客さまとの平和なひとときは、芦田均元総理がセッティングしてくださったのやもしれない。この地から平和の波紋が世界に広がりますやうに。

　おしまい。　
08.07.27　

今の床の間。

2008/07/29 (Tue) 揚　琴 TRACKBACK() COMMENT(0)