#191 正月風景

#191　正月風景

「だんさん、おめでとうございます」
「おめでとうさん。まあ、屠蘇でも一杯やっていってんか」
「へえ、こらおおきにさんで・・・おっとっと・・・ほー、これはええお屠蘇で」
「せやろ・・・おっとっと、おおきにおおきに・・・ところで、あんた、今年の抱負はどないに思うてなさる？」
「へえ、そらもう、ぬけるように白うて、絹のごとくにきめ細かで、にごりがないのに味わい深い、そんな風なんがいちばんでございますな」
「そら『豆腐』やろが。ほな、一年の計はどないなっとる？」

「聞いた話ですがな、先だって向かいに入ったこそ泥のやつ、初犯っちゅうことで一年ですんだとかで」
「そら『懲役一年の刑』やろが。まあ、ええ。で、初詣はもうすませたんかいな」
「それが、勧めてもろた薬を去年から塗りつづけておるんですが、まだこの通りつんつるてんで、ははは」
「そら『発毛』やろが！」
「いや、これはよいお屠蘇で」
「きょうは はなっからえらい酔うとるみたいやな。そんな具合で、年始回りはどないやったんや」
「それが、こう不景気やとたいしたことございませんな。この分やと今年は早や取り崩しってなことになりかねんのやないかと」
「そら『年利回り』やろが！ ほんまにもう、年始からろくでもない話ばっかしや。それはそうと、あんたんとこのせがれは大阪に出とるっちゅうことやが、暮れにはちゃんと帰省してきおったんかいな」
「暮れどころか、年がら年中ですわ」
「どういうこっちゃ」
「仕送りのひとつするやなし、親の金せびってばっかりで、どないもならしまへん」
「いや、暮れには帰省してきおったんかときいとるんや」
「そやから、いまだに年がら年中親に『寄生』しとる次第ですわ」
「またろくでもない話や。もう、そろそろ帰って雑煮でも食うたらどないや」
「からだが弱いもんで、雑煮だけはごめんこうむりとうございます」
「そらまた、なんでや。胃でも悪うしたにしてはよう飲むわな」
「かかあが雑煮をよそう折りに、亭主の甲斐性を引き合いに出しよるんで」
「どういうこっちゃ」
「『もち』のよさが肝心や、とかなんとか」

　おしまい。　
07.01.04　

レンギョウ。縁起物とされます。

2008/01/05 (Sat) 創　作 TRACKBACK() COMMENT(0)