#166 ふくよかな秋

#166　ふくよかな秋

　天高く、馬肥ゆるのだから、人も肥ゆるだろう。ワタシはといえば、空に浮かぶウロコ雲を見ればサンマのウロコに見えるし、青い空は脂が乗ったサンマの青身、周囲の綿雲は大根おろしと白ごはんに見えてしまう。
　やせ形のワタシは、ときどきもう少しかっぷくがよくなりたいと思うが、叶わない。食べることは大好きなのに、だ。もっと食べよう。

　でも、太っていて得をすることというのも、あまりなさそうな気がする。

　ずいぶん昔のことだが、本当にあった悲劇。

　たいへんふくよかな二人の女子大生が、秋のある日、学生街の喫茶・レストランに食事に入った。ひとりはふくよかなだけではなく、上背もあった。
「ねえ、ねえ、何にする？」
「あたしは、洋食弁当（※ 近ごろ見かけませんね〜）にしよっと！」
「あたしも、それにしよっと！」
　ウェイトレス娘が歩み寄ってきた。
「ご注文、お決まりでしょうか？」
　上背のある方が言った。
「洋食弁当、ふたつ下さい」
「洋食弁当を、おふたつですね？」
　・・・ウェイトレス娘は立ち去ろうとしない。洋食弁当のふたりがウェイトレス娘の方に顔を上げると、彼女はおもむろに、無表情で言った。
「そちらの方は何になさいますか？」

　おしまい。　
07.11.07　

杉苔

2007/11/08 (Thu) ちょっと笑える話 TRACKBACK() COMMENT(0)